セルモーター(スターターモーター)の修理(オーバーホール)の方法を解説します。
長期放置をしていたわけでもないのに突然、セル(スターター)が回らなくなってエンジンが始動できなくなり、バッテリーを交換しても改善しない場合があります。
その場合、他に考えられる原因はアースケーブルの不良、スターターリレーの問題、スタータースイッチの動作不良、コンピューターの故障などが考えられます。
それ以外でも考えられる原因は、スターターモーターの故障です。
スターターモーターが原因かどうか判別するには次の手順を試してください。
- エンジンは停止・メインキーOFF状態
- ギアを1速に入れる
- クラッチは握らない
- バイクにまたがる
- そのまま自分の足の力でバックする
- バックを何回か繰り返す
実際には後ろに下がることはできませんが、バックする力を加えたときにエンジンから微かに唸り音が聞こえる程度に力を加えればOKです。
その後、普段の通りエンジンをかける要領でスタータースイッチを押します。
そのときに多少でもセル(スターター)の動きが良くなったりエンジンがかかれば、セルモーターの不良が考えられます。
理屈は、
- セルモーター内にある「ブラシ」というバッテリーからの大電流を伝える部品にゴミ(スス)が溜まっている。
- ゴミが溜まるとブラシがモーターにうまく電気を伝えることができず、セルを回すことができない。
- 強制バックするとセルを人力で回すことができるため、そのときにブラシに貯まったゴミを落とすことができる
- ゴミが落ちるとセルが回るようになる
この方法は一時的な対症療法になるので、あくまでも出先でセルが故障したときの緊急措置で、原因を探す手段の一つです。
根本的にはセルモーターの交換が必要になりますが非常に高価な部品の上、古いバイクは当然ながら新品を入手することができません。
そこで、今回紹介するセルモーターのオーバーホールを参考にチャレンジしてみてください。
特殊な工具は必要無く、車体からセルモーターを外すことができればプラスドライバーやスパナ、ヤスリやサンドペーパーといった簡単な道具で出来ます。
とはいえ、多少難しい面もあり組み立てるときには根気と手先の器用さ、不屈の精神が必要になります。
セルモーターに手を出す場合は覚悟して臨んでください。
セルモータの大まかな構造
セル(スターター)モーターが動作する流れは以下のようになっています。大まかな構造を理解した上で作業しましょう。
バッテリーのプラス端子とモーターの間にスターターリレーを間に挟んでいますが、これはエンジンを回すためにバッテリーから流す電流を非常に多くする必要があるため太いケーブルが必要になり、大電流に人が感電すると危ないために装着されています。
モーターを駆動するための大電流はメインキーやハンドルスイッチのセルボタンに流れない構造になっています。
スターターリレーはメインキーON&スターターボタンを押すと内部のスイッチが動き、バッテリーからの電流をモーターに流す構造になっています。
スターターリレーの電気の通りが悪くなるとモーターは回りませんし、スターターボタンやメインキーの通電部が悪くなってスターターリレーが動作できなくなってもモーターを回すことはできません。
スターターリレーは動作音がしても大電流を通すとは限りません。
スターターリレーにある二つの太い端子間をショートさせてモーターが回るようならスターターリレーの不良と診断できます。
バッテリー上がりをしているときにエンジンの方から「ジジジ!」と聞こえる現象は、スターターリレーが高速で動いている音です。
モーターを回したいけど電力が足りず、バッテリーとモーターの板挟みになっているスターターリレーがひとりでもがいて頑張っているような状態と表現すれば良いでしょうか。
セルモーターを車体から外す
今回の教材車・GB250クラブマンは簡単に外すことができます。
画像ではエンジンが車体から外れている状態ですが、通常でも10mmのレンチさえあればセルモーターを外すことができます。
モーターをエンジンに固定しているボルトは外から見える場合が殆どで、どのボルトを外せばモーターが取れるかは判断しやすいです。
しかし、ドゥカティはセルモーターを固定しているボルトのうち1本がエンジン内にある場合があります。
その場合は一気にハードルが上がります。裏技としてモーターをエンジンから外さずにオーバーホールする方法もありますが、プロでも必死になるレベルの作業です。
一般の方にはお勧めできません。
まずはモーターを自分で外せるかどうかなので、それが難しいようなら修理店に依頼しましょう。
外す手順は、多くのバイクで以下の通りです。
- バッテリーのマイナス端子を外す
- バッテリーのプラス端子を外す
- セルモーターに繋がっているケーブル(黄丸部に有り)を外す
- モーターを固定してる赤丸部のボルト2本を緩めて外す。
- モーターを黄色矢印の方向(エンジンに繋がっていない方向)に引っ張る
(このとき、少し上下にモーターを揺すりながら引っ張ると外しやすくなります)
尚、外す前にモーター本体にあるプラスネジ2本を少し緩めておくと後々楽になります。
モーターを外したら外観をくまなく写真に撮っておくと、後ほど組み立てる時に役に立ちます。
モーターを分解する
モーターにあるプラスネジ2本を外すと、蓋の部分が外れます。
シャフト部分の先端には特殊なワッシャーが複数枚ありますが、無くすと手に入れることができないので注意が必要です。
モーターの中のシャフトの部分は始動時に高速回転しますが、そのシャフトを蓋の部分の穴で支えています。
モーター内部にはグリスが使えずベアリングも無いのですが、それでもシャフトにダメージが入らないように軸受けができるのはこのワッシャーのおかげです。
また、モーター本体のコイルに流れる電気がエンジンと繋がって、バッテリーのマイナスターミナルに接続する経路でもあります。
1枚1枚、非常に工夫が凝らされた形状で高精度なワッシャーなので組付けの順番や向きが狂わないように最新の注意を払ってください。
真ん中のシャフトの部分に対して直角向きに部品が付いていますが、このシルバーの部品の中に銅製で四角形の部品があります。
これがブラシです。
多くの場合、このブラシがシャフト部にうまく接触できずトラブルが発生します。
次に反対側の蓋を外します。
こちら側のシャフトにも複数枚のワッシャーが付いているので、蓋を外すときに落下して順番が狂わないよう気をつけてください。
両側の蓋が外れたら矢印の方向にシャフト(コイル)を引き抜きます。
筒の部分には磁石があり、コイルに対し強力な磁力があるので多少強めに引きぬきます。
引き抜いたコイルがオイルで汚れている場合、故障に繋がる可能性があるので危険です。
先ほど外した蓋の片側にはオイルの侵入を防ぐオイルシールが装着されていますが、そのシールが痛んでいるとモーター内部にエンジン内のオイルが侵入してしまいます。
シールは純正部品として入手できない場合が多いので、バイクの修理店に相談しましょう。
エンジン内のギアと嚙み合う部分に変形がある場合、多少程度なら始動性能に影響ありません。
これも部品として入手できないので、この部分の歯車が極端に消耗していればモーターの寿命となります。
通常はここまでの手順まで分解すれば修理できますが、今回は参考用に全ての部品を外しました。
コイルとブラシの接触部を修正する
コイルの先端部は銅で出来ています。よく見るとそれぞれ分割した形状になっていますが、モーターに不調がある場合は、この四角形状の銅の接触部分のひとつひとつが断線していないことを確認します。
テスターを使用して銅の部分の隣同士に導通があり、全てが電気的に繋がっていれば良好です。
ひとつでも断線があればNGなので、DIYでは修理不能です。
断線が無ければこの銅の部分をサンドペーパー(800番程度)で磨きます。
磨くと、このようにピカピカになります。仕上げにコンパウンドやパーツクリーナー、グリス、接点復活剤を使用してはいけません。
金属の表面は、完全に脱脂されて何も付着していない状態が一番良く電気を通します。
空気中の酸素と銅が反応してできるミクロ厚の膜(酸化膜=錆)ですら、電気を通さなく原因になります。
この部分にブラシとの摩擦で発生する粉塵が堆積して電気を通さなくなることもあります。
とはいえ摩擦力が高いほど電気は良く通り、その分摩耗粉が発生するのでメンテナンスが必要になることは仕方ないことかもしれません。
この銅の四角形状の部品が「ブラシ」で、バッテリーからの電気が送られてきます。
普段はシャフト(コイル)が真ん中に入っていますが、シャフトを抜くとこのようにばらけてしまいます。
このブラシはバネの力でコイルに強く押し付けられるようになっていますが、ゴミが溜まりすぎると動きが悪くなりコイルと接触しなくなることがあります。
この状態を、整備士界隈では「ブラシが引っ込んでいる」と言います。
このように外すだけでもゴミが落ちてブラシの動きが良くなるので、分解した瞬間に修理完了していることもあります。
ブラシは多くの工業製品に使われており、上級者であればホームセンターの電動工具用のブラシを流用してモーターを修理することもできます。
ブラシの角の部分を、目の細かいヤスリで優しく磨きます。バリが取れて角が立たないようになる程度で十分です。
バリがあるとブラシがモーターの通電部に接触しにくくなることがある他、ブラシと接触する際に異音が発生することが稀にあります。
その後、モーターとの接触部をサンドペーパーで軽く磨き、濡れたティッシュで汚れを拭き取ります。
全ての構成部品を点検して接触部を清掃、外観部を研磨しました。
モーターを組み立てる
基本的には分解した逆の手順で組み立てるのみですが、ブラシを装着するときが一番難しいです。
ブラシは非常に強い力でバネに押されています。ブラシは車種によって2~4つありますが、これらを全てを押し戻しつつコイルを挿入する必要があります。
ブラシ4つを指で押さえつつモーターをぎりぎりの隙間に挿入するのは腕が二本あっても足りません。
この作業に根気と不屈の精神、手先の器用さが必要になります。
これができないと2度とエンジンを動かすことはできません。
今回はブラシをタイラップで固定することができました。
車種によってはこの方法をとることができないので、その都度工夫する必要があります。
ブラシは柔らかいので、針金を使うときは銅線を使用して損傷しないように気をつけてください。
ブラシをケースに装着し、シャフト部を挿入することができました。
ブラシのホルダーにある爪の部分をケースの切り欠き部に合わせて配置します。
配線の巻き込みやブラシの引っ掛かりが無いこと、無理な装着になっていないことを確認します。
モーターのギア差込口のオイルシールを清掃し、ゴミが噛んでいないことを確認してからシールの内側にシリコングリスを塗布します。
これによってシールの痛みを軽減し寿命を長持ちさせることができます。
モーターを組み上げることができました。
大抵のモーターのケースには位置関係を示すケガキ線が入っています。
組み上げたときにこのケガキ線が整列するように組み立てます。
今回は分解前に線が一致していなかったので誤って組み立てられていたようです。
最後に動作チェックをします。
バッテリー上がりした車を救援するときに使うジャンプケーブルを使用して、モーターのプラス端子にバッテリーのプラス端子を繋ぎ、バッテリーのマイナス端子とモーターのボディを接触させてモーターが回転するか確認します。
画面奥側で盛大な火花が散っていますが、それほどの大電流が流れています。
普段、この火花はスターターリレー内で発生しているかもしれません。
スターターリレーが動作しても満足に電気が流れない場合は、この火花でリレー内の端子が焼けているのでしょう。
モーター単品の修理賜ります。
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