ブレーキには様々なトラブルがあり、解決方法も簡単なものから困難な事例まで様々です。
以前に某メーカーでブレーキの開発に携わっていた経験から可能な範囲でトラブルについて解説していきます。
エンジニアには守秘義務がありメーカーのノウハウを公開してはいけないことになっています。
今回の記事では一般公開されている情報の範囲内でバイクのブレーキトラブルの解決に繋がる情報を記載したいと思います。
今回はブレーキ鳴きについて解説します。
解決方法
- ブレーキ周りを洗剤で洗浄する
ブレーキに貯まった汚れは、鳴きの他様々なトラブルに繋がります。ひとまずは中性洗剤などでしっかりと洗車をしましょう。 - ブレーキのグリスアップ
ブレーキパッドがキャリパーに接触する全ての部分にグリスアップをします。使用するグリスは粘着タイプでも良いし、銅成分のグリスでも効果があります。
- ブレーキパッドの進行方向&後ろ方向の角を落とす(面取りする)
ブレーキパッドの角を面取りしてディスクローターにしっかりと密着するようにします。
- ブレーキパッドの材質を変更する
ブレーキ鳴きはブレーキパッドの設計によるところが大きいです。社外品のパッドに変更すると鳴きやすくなる傾向にあります。最も鳴きにくいのは純正品で、社外品でも効きの弱いパッドも鳴きにくいです。
- ブレーキディスクを交換する
ディスクローターを純正新品or社外品に交換することでも鳴きが変わる可能性があります。
- ブレーキパッドにスリットを入れる
ブレーキパッドの摩擦面に対し上下方向に縦溝を切ります。パッドの質量を変えることで鳴きが変わる可能性がありますが安全マージンは減ります。
- ブレーキキャリパーを交換する
ブレーキパッドに圧力を加えるキャリパーの構造や質量も鳴きに大きく影響します。
- ホイールを交換する
サスペンションのバネから下の部品の質量がブレーキ鳴きに影響します。社外品ホイールにカスタムした後にブレーキ鳴きが発生することも理論的にはあり得ます。
ブレーキ鳴きとは?
ブレーキとは打楽器のようなものです。
走行時に回転しているディスクローターと、サスペンションにキャリパーで固定されているブレーキパッドが触れると瞬間的にブレーキが効いたり効かない状態になります。
棒状の消しゴムで机を擦るとブルブルと振動することがありますが、これと同じイメージです。
この棒が滑ったり引っかかる現象をスティックスリップ現象といい、多くの摩擦で観察できます。
ブレーキが効いた瞬間に大きな力が発生し、パッドがディスクやキャリパーを叩きます。
この時に発生した音は微弱ですが、ディスクローターやキャリパー、サスペンションやホイールなどのブレーキ周りの部品にも音の振動が伝わります。
これら部品の材質や質量がたまたま相性が悪く、パッドから発生した小さい音が各パーツと共鳴したときにだけ大きな音が鳴ることがあります。
これがブレーキ鳴きの正体で、打楽器は意図して共鳴音が出るように作られていますが、ブレーキは出したくない音が仕方なく出ていることになります。
水が一定量入ったワイングラスの淵をなぞると「ヒィーーン」と音がでることがありますがこれと同じ現象です。
グラスをブレーキパッド、指をローター、水の量をブレーキ周辺部品に置き換えることができます。
まさにブレーキ鳴きは自然発生現象と言えます。
鳴くブレーキとは?
一般的に、ブレーキの効きを強くすると鳴き易くなり、逆にブレーキの効きを弱くすれば鳴きにくくなります。
極端に言えばブレーキが鳴かないようにしたければオイルを塗ってブレーキが効かないようにすれば解決できます。
それは極論ですが、開発現場ではちゃんと効いて鳴かないように、針の穴を通すように微妙な設計変更にトライ&エラーと気の遠くなるような実験を繰り返して、効きと快適性を両立したブレーキを開発しています。
これに少しでも外因(パッドの摩耗やパッド変更、汚れやグリス切れ)が加わるとたちまち鳴いてしまうのです。
純正のしっかり効いて鳴かないブレーキは奇跡の賜物です。
トラックや電車のブレーキがしょっちゅう鳴いているのは、重い車体をしっかりと安全に止めるために効きの強いブレーキを採用しているためです。
ちなみに、4輪車が寒い冬の朝イチのブレーキで強く鳴くことがあります。
この現象はメーカーでは専門用語で名前をつけているくらいポピュラーです。
詳しいメカニズムは伏せますが、しっとりした寒い朝の最初のブレーキは強く効くものなので必然的にブレーキ鳴きが発生します。
ディスクローターの錆や故障とは関係無く自然現象なので、点検して異状なければ気にしなくても良いでしょう。
ドラムブレーキは鳴き易い
ドラムブレーキは鳴き易く、ディスクブレーキは鳴きにくい傾向にあります。
これはドラムレーキの方がディスクブレーキよりも効きが強いためです。
ドラムブレーキは構造的に効きが強すぎる傾向にあり、繊細な操作がし難いのでフロント側に採用していないバイクが多いです。
どうしてもフロント側は負担が大きくオーバーヒートしやすいので、多少効きが弱くても冷やしやすい油圧ディスクブレーキをフロントに採用しているのです。
もし油圧ドラムブレーキをバイクのフロントに採用したら効きが強すぎる&冷却が間に合わずオーバーヒート→事故→リコールとなってしまうでしょう。
そして何よりもデザイン面で不利なので、バイクで最も大事な商品性が損なわれて販売台数が落ちてしまいます。
ドラムブレーキはコストパフォーマンスが良く構造がシンプルで効きが良い反面、デザイン面で劣り冷却面で不利なのが特徴です。
そのため、現在は車重が軽くてブレーキの負担が少なく発熱量が僅かで、コスト重視の軽量バイクをメインに採用されています。
ブレーキ鳴きは良いか悪いか?
ブレーキ鳴きはパッドの消耗を知らせるサインの一つです。
今まで鳴いていなかったブレーキが急に鳴きだしたとき、ブレーキに何らかの異常が発生している場合もあるので念のため点検をした方が良いです。
結果的に異常もなく効きも正常であれば問題はありません。
鳴きが問題なのは運転者に与える精神的苦痛でしょう。
本人が嫌ならそれは故障として扱うべきであり、対処しなくてはならないトラブルになります。
しかし、鳴きは自然現象でありレーシング系のパーツでカスタムすると鳴き易くなるのは承知してください。
効くブレーキは鳴くものです。
効かないブレーキは鳴きにくいです。
プロが点検してブレーキに異常が無ければ気にしない、おおらかさも必要かと思います。
ブレーキ鳴きのメカニズム
先述の通り、ブレーキパッドとローターの摩擦において発生するスティックスリップ現象を起因とする衝撃波が周辺部品に伝わり共鳴することで発生するのが主なメカニズムです。
いまだブレーキ鳴きのメカニズムは解明されていない部分が多く、今も各メーカーで研究がなされています。
このブログに記載したメカニズム以外の要因はたくさんありますが、これ以外の情報は機密情報にあたるのでお伝えしません。
ヒントは、いかにブレーキパッドを振動させないか?です。
そのために様々なグリスを様々な場所に塗布します。
他にもパッドの形状を変更したり、パッドやキャリパーやローターその他の周辺部品の質量や材質を変更するのも有効な方法です。
全ては当てずっぽうな試行錯誤でやっていくしかありません。
メーカーですら、何億円もする実験機器や膨大なデータを駆使して鳴きと日々戦って、何か月もしてやっと解決できるかできないかという、難しい問題なのです。
コメント
路線バスの、スキール音に悩まされています。
家ノ前が、下り坂の直角カーブなので、バスが通る度に
キー音が聞こえてきます。
アスベストが使えなくなってしまい、仕方が無いかともおもいますが、
運転主さんも、気にしておられるかと?
ドラムの自励振動によるものかと思いますが、なんとかならないのでしょうか?
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