ドゥカティ ムルティストラーダ1200DVTのタイミングベルトを交換する手順

整備関連

2015年式のドゥカティ ムルティストラーダ1200のタイミングベルトを交換する手順をショップ向けに解説します。
車両は2015年式で、DVT(ドゥカティ バリアブル タイミング)という油圧によってバルブタイミングを無段階調整する可変バルブ機構を備えています。
DVT付きの車両のタイミングベルトは3万kmか5~6年ごとにベルトを交換する必要がありますが、可変バルブ機構の無いエンジンと比べて作業工程が多く、車種専用の工具が必要になります。

メーカーとしてはディーラーでの作業を前提に車両を開発している経緯がありベルト交換はディーラー以外では公式には認められていませんが、作業する機会があり手順を公開します。
ディーラーに依頼できない事情がありSSTの入手が可能で、十分な技術のあるショップの参考になればと思い、執筆に至ります。
実際問題としては、昨今の人出不足等の事情により全ての車両の整備をディーラーが受け止めきれないこともあるかと思います。現実的にはディーラー以外のショップも今後は受け皿となっていくことも必要と感じます。

本手順でタイミングベルトを交換したとしても、オドメーターが一定距離に達すると表示されるメンテナンスマークの消去はディーラー以外では不可能です。
専用工具は非常に高価で今後の出番が少ないため経費を回収することは容易ではなく、作業工賃や中古車での販売価格を高めに設定する必要もあるかと思います。
それら事情を踏まえてお客様には十分な説明をお願いします。
尚、本手順を参考に作業したことで発生した損害は当店では一切保証しません。
また、作業への質問はメール等で受け付けますがバイクショップ以外の一般の方からの問い合わせはご遠慮ください。
当店への作業の依頼は一般の方からもダイレクトで受け付けますのでお気軽にご相談ください。
本作業は難易度が高く多くの工具が必須となるため、整備士ではない一般の方は絶対に真似をしないでください。
専用工具を使用せずにベルト交換をするとエンジンを破損するため、十分な準備無しにチャレンジしようとする方は御退出ください。

必要な特殊工具について

DVTエンジンのタイミングベルトを交換するには多くの工具が要りますが、その中でも特に必要なドゥカティ専用のSST(特殊工具)を紹介します。
ネーミングは特に決まっていないので当店にて適切な名称で呼びます。
純正以外の工具はネットで検索すればヒットするので楽天やamazonで購入できます。
純正のSSTは入手できるルートが限られています。取引のある問屋に問い合わせてください。
価格は仕入先や時期によるので公表は控えますが、これらを揃えるには新車の原付スクーター1台分程度の予算が必要になります。

クランクシャフト回転ツール

エンジン整備の際はクランクシャフトを手で回す必要がありますが、この工具は左エンジンカバーの小窓を外し、クランクシャフト端部に固定して使用します。
タイミングベルトを使用する全てのドゥカティに使用可能です。
純正でなくとも「ドゥカティ クランクシャフト 回転 工具」と検索すると該当する工具を購入することができます。
画像で使用しているのはこちらの工具で、コストパフォーマンス・使い勝手ともに純正工具よりも良いです。
リンクが切れているときは「F001384-F001」と検索ください。
価格が安い製品もありますが、要はクランクシャフトを回わすことができれば問題ありません。
使用する時はスパークプラグを必ず外し、工具を装着するボルトは確実に締め付けてください。
プラグが装着されている状態でボルトを緩く締めていると、工具とクランクシャフトの合わせ面に面圧がかからずに摩擦力が無効となり工具の爪が破損します。

ホリゾンタルバンク上死点確認ツール

ホリゾンタル(水平=前側)バンクの上死点を確認するためのツールです。
ツールの中心部の爪をクランクシャフトの溝に合わせ、センターのM8ボルトを締め付けて固定します。
ホリゾンタルバンクが上死点にあるときのみ、小窓を固定する右側のボルト穴に手で締めるボルトを固定することができるようになります。
当店ではツールズアイランド製の品番14103DUを使用していますが、検索してもヒットしないので廃盤となった可能性があります。
純正工具であれば887132011 をご用意ください。
この工具が装着できる位置とトップ位置の誤差は2~3°ある言われているので過信しないようにしてください。
ホリゾンタルバンクのトップ位置を各々のノウハウで確認できれば必須では無いですが、この工具があると速く確実に作業できます。

TEXA タイミングベルトテンションチェッカー

タイミングベルトのテンションを計測するために使用します。
ベルトを指で弾いたときの振動数を計測することで正確な張りを計測できます。
ドゥカティのベルトの張りの指定値はこの計測器での測定結果を基準にしています。
ドゥカティ純正品番は979000253です。
同様の工具はMARCさんで購入することもできます。
ヤマハのE01という電動スクーターのドライブベルトの張りを計測する際にも使用できます。
ヤマハ純正部品としては、品番90890-03259が該当します。

スマートフォンの無料アプリでも代用可能で、アプリと当機器の誤差はありません。
詳しくは当ホームページのこちらのページを参照ください。

上死点コントロールゲージ

ドゥカティ純正品番887135009です。
ホリゾンタルバンク(前バンク)が圧縮上死点であることを確認するための樹脂製ゲージです。
この工具は純正以外の代用不可で、車種専用の設定になります。
樹脂製でねじ山の部分がもろいので取り扱いに注意が必要です。
バルブタイミングを決める特殊工具は絶対に加工したり、変形しないように気を付けてください。

カムシャフト固定ツール

ドゥカティ純正品番887651737 です。
この工具は純正以外の代用不可で、車種専用の設定になります。
前後バンクのカムシャフトに直接装着して使用します。前後で使いまわすので1個購入することで作業が可能になります。

①ホリゾンタルバンクが上死点にあり、
②先述の887135009をタイミングベルトを駆動するプーリと周辺のボルト穴に装着できる状態で
③この887651737が前後バンクのカムシャフトに直接装着できる時のみ
タイミングベルトの張り計測・張り調整・脱着・交換をすることができます。
DVTのバルブタイミングは非常に繊細なので、タイミングベルトを交換する際はこれら3点の工具を砦として絶対に間違えないように作業を必要があります。

 

シリンダーヘッドカバーを取り外す

まずエンジンオイルを抜き取ります。
クランクシャフトを手で回転させるとカムシャフトを潤滑するオイルが噴出するので、ヘッドカバーを取り外す段階までの間にオイルを排出しておくと効率良く作業を進めることができます。

タイミングベルトを交換するにはカムシャフトを専用工具で固定する必要があるのでヘッドカバーを取り外します。
ヘッドカバーを外す直前までの工程はこちらのページで解説しています。

ホリゾンタル(水平=前バンク)ヘッドカバーにある黒い樹脂製カバーを固定するボルトを取り外してカバーを裏返し、IN&EXカム角センサーとEX側油圧機構のコネクターを取り外します。
AIS(排気ポートにフレッシュエアを導き排気ガスを浄化する機構)のリードバルブに装着されているホースのクランプをマイナスドライバーで開いてホースを取り外します。
このクランプは再利用が可能なので破損がなければ交換は不要です。

ヘッドカバー上部の隅にIN側カム角センサーのコネクターが隠れています。
配線が見えずらい箇所でクランプされているので事前に画像やメモを控えて元通りに戻せるようにします。
コネクターを外し、ヘッドカバー上の各部品を接続部から外します。
特にホリゾンタル側のコネクターには汚れが溜まりやすいので、この機会にコネクターを清掃すると良いでしょう。
ヘッドカバーを固定するボルトは13mmのボックスソケットと10mmの12ポイントソケット等で緩めることができます。
ヘッドカバー上の6本のボルトを取り外し、カバーを取り外します。
カバーを装着するときはボルト装着部のOリング、ヘッドカバーガスケット、プラグホールガスケットを交換します。

バーチカル(垂直=後ろバンク)側のヘッドカバーも同様の手順で取り外します。
周辺部品とのクリアランスが狭く干渉しますが、必要を感じた際は各部品を取り外してください。

ヘッドカバーガスケットを観察すると局部的に液体ガスケットが塗布されています。
装着時は全面に薄く液体ガスケットを塗布しても良いですが、塗りすぎるとカムシャフト内部や外側にガスケットがはみ出します。
装着ボルトの根本にはOリングがありますが、新品に交換する時は私はシリコングリスをリングに塗布して組付けます。
装着の際は各自の信念のもと、確実に作業してください。
カバーを装着するボルトはM6×P1.0で、規定トルクは10N・mです。

タイミングベルトを交換できる位置にする

ジェネレーターカバーに中心部にある小さなカバーを取り外し、クランクシャフト回転ツールをクランクシャフトに固定します。
ホリゾンタルバンクのプラグホールを覗いてシリンダー内部の動きを確認しながら、クランクシャフトを反時計回り(正回転)に回し、ホリゾンタルバンクのピストンがトップになる位置にします。
この時、上死点位置で回転ツールの根本と小窓付近にマーキングをすると作業がしやすくなります。

ホリゾンタルバンクピストンが正確な上死点になるよう微調整するために、ホリゾンタルバンク上死点確認ツールをクランクシャフトとジェネレーターカバーに固定します。

この時、エンジン右側のタイミングベルトを駆動するプーリ(プライマリー側プーリ)のポンチマークとクラッチカバーの線マークが一致しているか確認します。
可変バルブタイミングではない通常のエンジンであれば、
クランクシャフト2周(2×360°)に1回はポンチマークと線マークが一致しますが、
1200DVTのエンジンであればクランクシャフト40周(40×360°)に1回一致します。
1260DVTでは数周増えると記憶していますが検証はできていません。

マークが一致していないときはクランクシャフトに装着しているツールを回転用ツールに取り換えて同様の手順を繰り返します。
二人一組で作業するか、プーリーをファイバースコープとスマホアプリで映した状態で確認しながら作業すると良いでしょう。

・ホリゾンタルバンクのピストンが上死点にある時に、
・プーリーのマークが一致している状態になったら、
上死点コントロールゲージが、タイミングベルトを駆動するプーリーとクランクケースのボルト穴に装着できることを確認します。
この段階ではベルトが干渉してゲージを完全に装着することはできませんが、長いボルトを使用して仮止めをします。
無理をするとゲージの山とネジ穴が損傷するので注意してください。

このとき、前後バンクの吸排気カムシャフトプーリーにあるポンチマークがそれぞれ外側を向き、シリンダーヘッドの端と一致しているはずです。
ベルトの伸び具合によってはヘッド端部とポンチマークが一致しないことがあるので目安としてください。

ホリゾンタルバンク上死点確認ツールが問題無く装着できたら、前後バンクのカムシャフトにカムシャフト固定ツールをボルトで固定できることを確認します。
画像のツール(ドゥカティ純正品番887135009)は前後バンクのカムシャフトに使用できます。
このSSTは非対称の形状をしているので、装着できる位置にしか装着できないようになっています。


ホリゾンタルバンク上死点確認ツール、上死点コントロールゲージ、カムシャフト固定ツールが容易に装着できる時のみ、
タイミングベルトの張りの計測と調整、脱着と交換が可能です。
この位置合わせは重要なので入念に確認してください。

この状態で各ベルトの張りを計測します。
計測方法(ベルトの張力を計測する箇所等)はこちらのページを参考にしてください。
新品ではないベルトで、エンジンが冷えているときのベルトの張りは70Hz以下に無ければ正常です。
画像では、ホリゾンタル側73Hz バーチカル側79Hzとなりました。
3万km程度走行していますが、張りの狂いは比較的少ない状況です。
このとき、ベルトの張りが80~70Hzよりも著しく高いときは位置合わせが間違っている可能性があります。
ベルトを外す前に張りを計測しておくことで、ベルトを再装着したときに設定する張力の見当をつけることができます。

これ以降、タイミングベルトを取り換えて規定張力にセットするまでの間はクランクシャフトを回転してはいけません。

タイミングベルトを取り外す

ベルトを外す前にカムシャフトプーリーにマーキングをします。
ホリゾンタル(前バンク側)のプーリは進行方向に、バーチカル側のプーリーには天井方向にそれぞれマークをすると判別しやすくなります。
カムシャフトを固定する特殊工具は正しい位置でしか固定できないので間違えることは無くマーキングは必須ではありませんが、正位置を簡単に把握できるようにすることで作業効率を良くすることができます。

ホリゾンタルバンク側のベルトテンショナープーリーを固定ナットと共に取り外します。
タイミングベルトを取り外し、新品のベルトと寸法が合っているか確認します。
ドゥカティのタイミングベルトの品番は度々更新されるので、ベルトの表面の刻印にある品番は古いベルトと新しいベルトでは異なる場面が多いです。

この状態で、カムシャフトを駆動するプーリーとクランクケースを固定する特殊工具が容易に装着できることを再確認します。
特殊工具は装着時の精度を高めるためにボルト穴のクリアランスに余裕が無くなるように加工されています。
もし容易に装着できなければクランクシャフトの位置関係を再確認します。
特殊工具のボルト穴は絶対に加工したり、レンチで締め付けて広げないようにしてください。

バーチカル側のテンショナープーリを固定するナットにマーキングをします。
このナットの締め付けトルクは25N・mですが、トルクレンチの使用が難しく、緩める前にナットの締め付け具合の目安を残しておくと装着時に確実に作業できます。

ナットを12mmのメガネレンチ等で緩めて取り外し、プーリーを知恵の輪のように動かしながら取り外します。
中間部タイミングベルトカバーを外すことはできません。
上手に作業をすれば力を入れることなくプーリを取り外すことができます。
無理な力でプーリーを外そうとするとカバーや周辺の部品を傷つけます。

バーチカル側のタイミングベルトを取り外すことができました。
エンジンがフレームに装着されている状態でベルトを脱着するには困難がありますが、無理をせずに丁寧に作業をすることで問題無く作業を進めることができます。
バーチカル側のカムシャフトはロッカーアームのリターンスプリングのテンションが掛かっている状態でベルトを脱着します。
このため、ベルトを外した瞬間にカムシャフトが動いてしまいます。
カムシャフトを交換位置で固定する特殊工具はそのためにあります。
カムシャフトが動いたとしてもマーキングが天を向いていることを事前に確認しているので慌てずに済みます。

前後のベルトを外したら、ボルトの緩みやプーリのベアリングの状態をチェックし、各部を清掃します。
プーリの山に砂粒等の異物が載っている状態で新品のベルトを掛けると損傷の要因になります。

バルブクリアランスを計測する

ドゥカティでは走行距離が延びるとデスモサービスという点検整備の実施が指定されています。
デスモサービス中のエンジンセクションの主な内容は、エンジンオイル、オイルフィルター、スパークプラグ、冷却水、スパークプラグ、タイミングベルトの交換とバルブクリアランスの計測です。

油脂類やエアエレメント、スパークプラグはデスモサービスに至らなくとも交換することもあると思いますが、今回はタイミングベルトを交換する機会にバルブクリアランスを計測します。

タイミングベルトを取り外していれば、クランクシャフトの位置に関わらずバルブクリアランスを容易に計測できます。
カムシャフトにテンションが掛かっていないフリーの位置であればクリアランスは最大の位置にあります。
片手でカムシャフトのプーリを持ち、軽く回ることを確認しながら計測してください。

デスモドロミックにはバルブを開くオープン側と、バルブを閉じるクローズ側があります。
オープン側のカム山は小さい方で、カムシャフトとロッカーアームの隙間にシックネスゲージを挿入して計測します。
オープン側の規定クリアランスはIN・EXともに0.18±0.13mmです。
マニュアル記載の±の範囲が広すぎるのでにわかには信じがたいのですが、0.18mmの近辺にあれば問題無いかと思います。
オープン側のクリアランスが狭くなる要因はバルブシートへのカーボン噛みです。
クリアランスが広くなることは少なく、シムを意図的に薄く削るか、ヘッドをオーバーホールする際にバルブシートカットをすることで広がる場面が殆どです。

図解を必要とする場合は「multistrada1200 workshopmanual」と検索すると海外のページで情報が引き出せるかと思いますが、各種リスクも含めて自己責任で閲覧ください。
版権の関係から公式図解の転載は控えます。

クローズ側はカム山が大きい方でカムシャフトとロッカーアームの隙間を計測します。
クローズ側の規定クリアランスはIN・EXともに0.10±0.05mmです。
空冷ではクリアランス0.00mmが理想ですが、水冷の場合は最低でも0.05mm程度のクリアランスはあったほうが良いでしょう。
クローズ側のクリアランスが広くなる要因はバルブシートへのカーボン噛みです。

先述の通り、規定クリアランスを逸脱する要因の殆どはバルブシートへのカーボン噛みで、この年代のドゥカティの場合はバルブやシート、ステムの消耗は殆どありません。
クリアランスを規定値に収めるにはヘッドを外してバルブシートを擦り合わせるか、燃料添加剤でカーボンを除去し、クリアランスが自然に規定値に収まるようにする方が低リスクでしょう。
カーボンを除去せずに人為的にクリアランスを矯正する場合はあらかじめシムの価格を調べてから予算とリスクを検討することをお勧めします。
シムは1個あたり数千円はします。
ヘッドをオーバーホールする際にシートカットをすると、全箇所でのクリアランスが大幅に狂うので交換シムは16個必要になり、シム代だけでも6~10万円程度のコストを要します。
エンジンブローでもしない限りバルブシートが損傷したり変形することは無いので、ヘッドをオーバーホールする際は擦り合わせに留めた方が良いと思います。

新品のタイミングベルトを装着する

※先ほどの画像を再利用しています。
新品のベルトを装着する前に、ゲージが容易に装着できる位置にあることを再確認します。
装着が可能であることを確認したらゲージを取り外します。
これ以降はゲージを使用しないので、作業中は絶対にクランクシャフトを回転しないでください。

バーチカル側のカムシャフトのプーリーのマーキングの位置を確認し、特殊工具を使用して吸排気のカムシャフトを固定します。

タイミングベルトを挿入し、駆動側プーリーとクランクケースの隙間にウエス等を挿入してベルトの下側を仮固定します。

進行方向とは逆側のベルトを手で張りつつ、排気側カムシャフトのプーリーの端にベルトを掛けます。
この時、進行方向側のベルトは緩い状態です。

吸気側カムシャフトのプーリーにベルトを掛けます。
吸排気カムシャフトのプーリ間はベルトが張っている状態にします。
この作業は一番難しいかもしれませんが、整備士であれば問題無く作業できるでしょう。

進行方向側のベルトは緩んでいる状態なので、テンショナープーリを装着する部分の土台の内側にベルトを回します。
画像のように土台の内側に回すことができないときは、進行方向逆側のベルトが緩んでいるかカムシャフトプーリ間の山をひとつ多く掛けています。
正確にベルトを装着できた場合のみ、このようにできます。

テンショナーを装着し、固定ナットを緩く締め付けます。

テンショナーの穴を適切な工具で軽く叩き、テンショナーを反時計回りに回転させてベルトにテンションを加えます。
固定ナットを締めすぎているとテンショナーを回すことができず、穴を工具で叩いたときに破損します。

タイミングベルトの駆動プーリとガイドプーリの中間部分でテンションを計測します。
張力の測定方法はこちらのページを参考にしてください。
画像では専用機器でテンションを計測していますが、参考ページにあるようにスマートフォン対応のアプリでも正確に張力を測ることもできます。
以前は駆動プーリーの根本部分での計測を推奨していましたが、現在はプーリ間中央部での計測を推奨しています。
このエンジンの新品時のベルトの張りは90Hz±5Hzに調整してください。

ベルトの張力が目標値に入ったらテンショナーを固定するボルトを規定トルク近辺の力で締め付けます。トルクレンチが使用できないので、手の感覚で十分に締め付けてからボルトとナットのマーキングの位置が合っていることを確認してください。

カムシャフトを固定する工具をバーチカル側からホリゾンタル側に付け替えます。
ホリゾンタルバンク側も同様の手順で新品のベルトを掛けます。
こちらは比較的容易に作業できます。

ホリゾンタル側のベルトも90Hz±5Hzのテンションに設定します。
テンショナーを固定するナットは25N・mで締め付けます。
ボルト部にはロックタイトや締め付けグリスの塗布は不要ですが、異物や錆の噛み込みが無いように清掃してください。
ベルトの装着が完了したらカムシャフトを固定する特殊工具を取り外します。

バルブタイミングが正確な時は、前後バンクにて吸排気カムシャフトプーリのポンチマークが外側かつシリンダーヘッドの端部と一致する位置にあります。
ベルトを新品に交換せずに脱着するときは、カムシャフトを固定しなくともにポンチマークの位置を確認しながら作業をして張力と位置関係さえ元に戻すことができれば問題無いかと思いますが、ベルトが新品になると伸び分がリセットされてベルト全体の寸法が変化します。
ベルト交換時はカムシャフトを固定して作業した方が安全です。

タイミングベルトの張りを最終調整する

新品のタイミングベルトを正確に装着したらクランクシャフトを40回転(40×360°)し、交換時の位置に戻します。
この時、バルブとピストンの接触や各部の干渉、異音が無いことを確認してください。
この工程により、装着したベルトと各プーリの位置関係が馴染みます。

装着時は90Hz近辺の張りで設定しましたが、馴染ませた後は10Hz程度張りが落ち着きました。
ベルトが掛かる部分のプーリーには多少の遊びがありますが、クランクシャフトを回すことで自然な位置に収まり、張力が変化します。

張りを90Hz±5Hzに再調整します。
これにてタイミングベルトの交換は完了です。
これ以降、一度でもクーリングファンが動作した状態で使用したタイミングベルトを脱着するときは80Hz±5Hzの張りに調整します。
タイミングベルトは2年に1回程度は消耗や損傷、張りを点検します。
点検時(エンジン冷間時)は張りが70Hz以下に緩んでいたときは80Hz±5Hzに再調整します。

以降、各カバー類や外装の組み上げは取り外し時の逆の手順で作業してください。
外装を取り外す手順はこちらのページでご案内しています。

最後に

聡明な整備士の方でしたら、ここまでの内容を一読した時点で特殊工具を一切使用せずにベルトの交換が可能であることにお気づきかと思います。
しかしながら、クランクシャフトとカムシャフトを正確な位置に固定せずにタイミングベルトを脱着するとバルブタイミングが設計通りに確実に合っている確証が無く、エンジンブローに至らずとも性能が落ちたり予期せぬエラーを拾うリスクがあります。
ここに記載した内容はサービスマニュアルに準じて可能な限り正確な作業手順になるように留意して執筆しました。自己判断で整備をする際はリスクを十分にご承知ください。
当記事を参考に作業を実施した場合であっても、それによって生じた損害は当店では責任を負いません。

当手順についての質問は同業のプロの整備士からのみ受け付けます。
当店への整備の依頼は、同業他社・一般の方からも歓迎します。
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電話での問い合わせは070-4084-1485まで、
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