元・バイクの整備士の知識、公開します。

ドゥカティのタイミングベルトの交換方法

2020/01/06
 
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mecha_blo
元・バイクの整備士→現・自動車の開発に携わっています。 70年代国産車(いわゆる旧車)専門のメカニックを経てドゥカティのディーラーで勤務。 キャブレターから最新の電子制御まで、幅広い分野の知識を持っています。 全てのバイク乗りにお役立ちの情報を公開します。

ドゥカティをメンテンスする上で壁となるタイミングベルトの交換。
難易度が高いうえに特殊工具を必要とし、
失敗するとエンジンを壊すリスクの高い整備です。
今回は元・ディーラーメカニックとして適切な交換方法を紹介します。

こちらも併せてご覧ください。
本文中には記載していない以下の事項を載せています。
・ベルトの張りの確認方法
・ベルト張力の一覧表
・ベルトの交換時期

注意事項

この記事は空冷のドゥカティを対象にした方法です。

ただし、モンスター400及びSS900ie以前の空冷エンジンには対応しません。
記事のベース車両は2006年式スポルト1000ですが、
2003年に発売されたSS1000DS2019年現在最新の空冷モデルまで応用可能です。


水冷モデルにはカムシャフトのタイミングを規定位置に固定する特殊工具が必要ですが、

その工具は純正部品として入手するしかありません。



水冷モデルはカムシャフトタイミング、張り調整ともにシビアさが要求されるので、

クランクシャフト&カムシャフトをロックするツールが無い限り、

タイミングベルトの交換はディーラーに依頼してください。ただし、張り具合の調整のみであれば、特殊工具でタイミングロックせずにテンショナーを動かすだけでも特に支障は無いと思います。

ですがせっかくタイミングベルトに手を出すならバルブタイミングを適正値に合わせる方が賢明なので、水冷の場合はツールを揃えた上で作業した方が良いです。



また、パニガーレ (Lツイン&V4)はカムチェーンを採用しているので(恐らくO/Hする時まで)調整不要です。

水冷の中でも、DVTと呼ばれる可変バルブタイミングを採用しているバイクは、

ディーラー以外ではタイミングベルトのメンテナンスは不可能です。

絶対に手出ししないように気をつけましょう。

ドゥカティ専門用語

本文のボリュームを減らして読みやすくするため、ドゥカティに使われる専門用語を多用します。
あらかじめ用語説明を載せますのでご一読ください。

  • バーチカル(V=垂直の訳 リアバンク、後気筒のこと
  • ホリゾンタル(O=水平の訳 前バンク、前気筒のこと
    ドゥカティは1番や2番などの数字で気筒を呼びません
  • タイミングプーリ=クランクシャフトとギアで繋がっているプーリ
    タイミングベルトを駆動します。
    クランクケース内でギアを介し1/2に減速されています。
  • Vカムシャフトプーリ=後気筒カムにタイミングベルトを掛ける部分のプーリ
  • Hカムシャフトプーリ=前気筒カムにタイミングベルトを掛ける部分のプーリ
  • テンショナー=タイミングベルトにテンションをかける可動のローラー
    自動調整機能は無く手で位置を調整する必要があります。

 

タイミングベルトのカバーを外す

 

エンジン右側にあるタイミングベルトカバーを外します。

カバーを外すまでの道のりは車種によりけりです。
特に特殊な技術や工具、知識は必要ありません。
難しい車種でも、整備士であれば「多少面倒」程度の難易度で外せます。

モンスター696以降はエキゾーストパイプが邪魔になりますが、
工夫すればパイプを外さずにベルト交換できます。

車種によってはO側のベルトカバーを外す時にオイルクーラーホースが干渉します。

そのまま頑張ってカバーを外すと必ず痛い目に遭います。
オイルクーラーをずらした上でカバーを外しましょう。

私は自分のバイクで横着してカバーを傷つけたり、
ホースを締め付けるボルトが緩んでサーキットでオイルが噴出しました。
オイルクーラーはシリンダーヘッドにボルト2本で留まっているだけなので、横着はNGです。

クランクシャフトを回せるようにする

スパークプラグを外します。
ドゥカティの殆どの空冷はCプラグ、16mmのソケットを使用します。
バーチカル側のプラグホール周辺には砂が溜まりますので、
清掃した上で外してください。

 

エンジン左側のクランクシャフト延長線上にあるカバーを外します。
この年代であれば4mmヘキサゴンが使用されています。
エンジンとリジットに締め付けている箇所で熱が加わるので、
かなりキツく締まっています。
ナメないように、最初からTレンかインパクトドライバーで緩めると良いでしょう。
ソケットは一番良いものを使用しましょう。

カバーを外すとクランクシャフトの先端が見えます。
この穴に工具を取り付けてクランクシャフトを回します。

 

 

専用の特殊工具は存在しますが、投稿のコンセプトは身近な工具だけで整備すること。
8mm×P1.25の短めのボルトを使用します。

 

 

ボルト長さは人差し指の先端程度が理想ですが、
長すぎる場合は適当なカラーをかませて調整してもOKです。

 

ボルトの頭がクランクシャフトに着座するまで締め込みます。
ネジ穴が浅いので着座しない場合は更に短いボルトを使用して下さい。
時計回り(ボルトを締める方向)限定ですがクランクシャフトを回せるようになります。
専用ツールはこちらのマルクというショップで、
「タイミング・カムシャフト回転ツール」の名で販売されています。
ただし、パニガーレ(L2&V4)には適合しません。

ホリゾンタル側を圧縮上死点にする

 

クランクシャフトを回し、タイミングプーリとクランクケース側のマークを合わせます。
これによりホリゾンタル側のピストンを圧縮上死点にザックリ合わせることができます。
ここを確認せずにピストンを上死点にするだけで作業を進めると、
実はホリゾンタル側がオーバーラップだった。というミスも起こりえます。
ピストン位置としてはあくまで目安ですが、必ず確認して下さい。

 

 

クランクケース左側エンジンカバーの、
先ほどクランクシャフトを回すために外した小さいカバーの右上に小窓があります。
中にはフライホイールが入っており、クランクシャフトを回すと回転するのが見えます。
ケース側にある針状の印とフライホイールの印が合うと、
ホリゾンタル側が圧縮上死点になります。
ただし、窓が退化して無くなっている車種も多いです。

 

ちなみに、反時計回りに270°回転させた時にもマークが合い、
バーチカル側の圧縮上死点がわかるようになっています。

ベルト交換をする場合はOバンクを圧縮上死点にするだけでOKです。
Vバンクを圧縮上死点にするのは張り点検時ぐらいです。

同時にピストンが一番高い位置にあるか、プラグホールから直接確認して下さい。
タイミングをしっかり合わせる専用工具はマルクさんで「クランクシャフトホルダー」の名で販売されています。
高価ですが、精度が問われる品物なので納得価格です。

ちなみに、クランクシャフトが本来のタイミングから3°程ズレただけでもエンジン特性が大幅に変わってしまいます。

 

カムシャフトの位置合わせをする

プラグホール上側にあるカムシャフトカバーにあるメクラボルトを緩めて外します。
バーチカル&ホリゾンタル両方外して下さい。
外すときにオイルが漏れるのでウエスで保護して下さい。

ガスケットはアルミ製なので変形しています。
ガスケットをボルトから外さずに、
ボルトを同じ位置に戻せば再使用OKです。

 

ボルトを外すとこのような景色。
ホリゾンタルピストンが圧縮上死点の状態です。

 

あえてクランクシャフトを少し回してみました。
カムシャフトNG位置なのですが、違いがわかりますか?

カムシャフトの構造について解説

これは空冷2バルブOHV用のカムシャフトです。
これ一本で一つのシリンダーヘッドのIN&EXバルブを強制開閉しています。
ロッカーアームを4本動かせる代物です。

 

カムシャフトの(装着状態で)左側を見ると、窪みがあります。
ここが先ほどメクラボルトを外した時に見えていた部分です。
ホリゾンタルシリンダーが圧縮上死点の時に、
O&Vカムのメクラボルト穴から窪みが見えるようになっています。

 

スペシャルボルトを2用意します。
と言っても、専用のツールではなく適当なボルトです。
恐らく、モンスター900用のメーターをとめるボルトかと思います。
念のため品番は、77910981Bです。
例によってマルクさんでも「2バルブヘッドタイミングツール(M8×1.25 2個セット)」の名で専用ツールが売られています。

ドゥカティ空冷カムシャフトをロックするボルト

普通のボルトを加工しても代用できます。
M8×P1.25の適当なボルトを用意し、
先端5mm以上の長さの部分を、ネジ山が無くなるまで削ります。
直径が6.00mmになるように加工して下さい。

このボルトを前&後カムシャフトカバーの穴に手で締め込みます。
タイミングが合った時はこのような図に。

 

タイミングが合っていないときはこの様に奥まで締め込めない状態になります。

 

カムシャフト単品ですとこの様になります。
溝の部分にボルトがきっちりはまり、
交換する際のカムタイミングをボルトでロックできる構造です。
ボルトの直径がきっちり6.00mmである必要があります。

ホリゾンタル側ピストンが圧縮上死点にあるときに、
ホリゾンタル&バーチカルカムシャフトをスペシャルボルトでロックしている状態
にして下さい。

 

 タイミングベルトを外す

※画像は全てホリゾンタル側です。
バーチカル側の手順も同様なので、ホリゾンタルと同時進行で作業して下さい。


カムシャフトプーリーあるボルト3本(M6のトルクス)を、
180°緩めます。
ベルトを換えた後に締め付けますが、トルクは10N・mです。
トルクレンチが無い場合は、元の締め具合に戻せるように
緩める前にマーキングをしておきましょう。

このボルトを緩めることでプーリーのベルトのかかる部分がフリーに動くようになります。
カムシャフト自体はボルトでロックしているのでカムが動くことはありませんが、
ベルト部がフリーになることで張りを適正値に調整することができます。

 

テンショナーを外します。(ボルト二本で留まっています)
ベアリングを回してみて、抵抗感のあるものは要注意です。
動きが悪くなるとベルトを攻撃し、最悪の場合はベルトが切れてしまいます。
交換する場合は純正品を取り寄せて下さい。劣化し難い対策品になっています。
また、ベアリング表面に錆びがある場合、同じようにベルトを攻撃するので綺麗に磨きましょう。

 

ベルトを外します。
カムシャフトプーリがフリーに動くことを確認してください。
プーリ―内が錆びていると動きません。

 

タイミングプーリの部分の隙間が狭く、外すのに苦労する車種もあります。
しかしながら、装着する時はこの狭さのおかげで作業が楽になります。

 

タイミングベルトを取り付ける

 

まず、ベルトをタイミングプーリ―から通します。
※装着の際はバーチカル側からベルトを取り付けます。
次にカムシャフトプーリ―にベルトを掛けますが、
プーリーを反時計回りに回してからベルトを掛けてください。
かかるコマは成り行きでOKです。
もし時計回りにセットした状態でベルトを掛けると、
テンショナーで張ったときに張りが不均等になってしまいます。

 

ベルトを掛けたらテンショナーを取り付けます。
ベルトの下側からくぐらせると簡単に装着できます。

 

とりあえずベルトは適当に張っておきます。
テンショナーをとめる2本のボルトはソケットで手締めします。
(案外手締めでも固定できますので)

こちらを参考にベルトを適正値に張ります。
手締めであれば簡単に張り調整できます。
※今回の手順(Oバンクが圧縮上死点で、カムシャフトをV/O共にロックしていてカムシャフトプーリのボルトを緩めている状態)であれば、バーチカル側の張力を測る際にV側を圧縮上死点にする必要はありません。
ホリゾンタル側が圧縮上死点の状態のままバーチカル側の張力を規定値に合わせて張ってください。

 

張りが適正値に決まったら20N・mで本締めします。
ボルトを締めこむと張りが変わる可能性があるのでもう一度張力を確認してください。

 

カムシャフトプーリの3本のボルトを締め付けます。
このボルトが緩んで外れるとエンジンブローします。
少しでも締め付けが甘いと緩んでしまいますので念入りにお願いします。

この後、カムシャフトをロックしているボルトを外してから
クランクシャフトを何周か回します。
ピストンとバルブがヒットしないことを確認したら逆の手順で元通りに組み直します。

 

お疲れさまでした。
以上がベルト交換の手順です。
作業自体はシンプルですが、文で説明すると中々のボリュームになってしまいました。

水冷も基本的には同じような手順です。
カムシャフトがダブルなのでロックする工具が違うことぐらいです。

今回は空冷ベースの説明になりましたが、
ディーラー以外の整備工場でベルト交換をする整備士の方
アマチュアメカニックだけと自分のバイクでベルト交換に挑戦したい方はご参考ください。

 

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元・バイクの整備士→現・自動車の開発に携わっています。 70年代国産車(いわゆる旧車)専門のメカニックを経てドゥカティのディーラーで勤務。 キャブレターから最新の電子制御まで、幅広い分野の知識を持っています。 全てのバイク乗りにお役立ちの情報を公開します。
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