今となっては倒立フロントフォークはあらゆるバイクに搭載されています。
長年乗っていればオイル漏れなどのトラブルは必ず発生します。
今回は96年式 ドゥカティ900SSのSHOWA製 倒立フロントフォークを教材に、オーバーホールの手順を説明します。
オーリンズサスペンションのオーバーホール手順はこちらを参照してください。
オーバーホールの手順は、バイクのメーカーや車種というよりもフロントフォークのメーカーによって異なってきます。
アクスルシャフトの入る穴の裏側を見ると「SHOWA」(ショーワ)など書かれています。これがメーカーになりますが、高級サスペンションで有名なオーリンズはアウターチューブ(外側の部分)金色であることで区別がつきます。
他にも有名なメーカーとしてはマルゾッキやホワイトパワー等もあります。
今回はショーワのスタンダートなタイプのフロントフォークを教材にしますが、大まかな流れは他のメーカーのフロントフォークにも応用できます。
ショーワよりもオーリンズの方が苦労をしなくて済むかもしれません。しかし、トップキャップを緩めるのに特殊な工具が必要になるのがネックです。
必要な工具、部品、部品各部の名称から説明しますので、専門知識や道具に不安のある方は全体を読んで頂いてから修理にチャレンジすると良いと思います。
フロントフォークの修理は高度なテクニックと設備、手間が必要になるため、部品代よりも工賃が高くなりがちです。
少なくとも3万円以上はかかるかもしれません。
一から自分で作業すると工具などで同じくらいお金がかかるかもしれませんが、自分でやりたい派の方は是非参考にして下さい。
※文中の緑文字は2022年6月27日に書き直しました。
必要な工具
大まかにはこのような工具を使います。
左から紹介します。
小型のマイナスドライバー
これはクリップやカラーを外すのに使用します。
マックツールのウォーターポンププライヤー
トップキャップを緩めるのに使用しました。
トップキャップを緩めるには形に合った専用ソケットが必要になります。今回はこの工具で代用しましたが、合う工具を見つけて手に入れることがサスペンションオーバーホールの最初の関門になります。
尚、オーリンズの場合はトップキャップの形状が複雑なので他の工具で代用するのは不可能です。
ロングノーズラジオペンチ
長年愛用の工具です。
高価である必要は無く、大きいホームセンターでも入手できるかもしれません。
スパナ
今回のような、ショーワのスタンダートな倒立フロントフォークの場合は14mmと17mm用のスパナを使用します。
工具セットに入っている一般的なものでOKです。
フロントフォークシールドライバー
Amazonで購入しました。フロントフォークシールを打ち込むためのものです。
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ハンマーの内側部分に接着されているプラスチックの保護部品は間違いなく外れます。
新品のうちにガムテープで補強&保護し、プラススチック部が外れたりフロンフォークにダメージが入るのを防ぐ工夫をしてから使用しましょう。
使用する際は爪付きの樹脂のアタッチメントをシールに当てて、手の力で強めにシールを押して軽く押し込んでから、ハンマーで強く叩き込むのが正しい使い方のようです。
精度や使い勝手は、バイク屋さんで使っている従来型のドライバーと同等でした。
フロンフォーク内のパイプを押し下げるのに使用する為に作成した自前の工具です。
材料はホームセンターで手に入るL字ステーとボルト&ナット、蝶ボルトを組み合わせました。
材料費は1,000円前後でしょうか。
はんだ溶着などの特殊なスキルが必要になりますが、割と簡単に作れます。
これがあると一人でもフロントフォークの分解が出来るようになります。
もし作り方を詳しく知りたい方がいらっしゃれば、お気軽に問い合わせフォームまでご連絡ください。
フロントフォーク内部のパイプの先端に穴が開いているので、ここに特殊工具をセットして使用します。
探せば専用工具が販売されていますが、高額だったり片手で操作できないのでオリジナル工具を作りました。
その他、クレ5-56やオイル、廃油を捨てるパック、800番のサンドペーパー、ビニールテープを使用します。
これらは全てホームセンターで購入できるので探してみてください。
作業すると他にも色々な工具が欲しくなると思います。
いったんフロントフォークを分解するとその場を離れにくくなるので、念入りに準備してから作業を開始すると良いでしょう。
各部品の名称
フロントフォークの各部名称を紹介します。
メーカーや人によって名称に違いがありますが、本ブログの文章を理解する際にご参考ください。
区別し易いように、分解後の写真を使って説明します。
①インナーチューブ
メッキされたパイプの付いている部品です。
倒立フロントフォークでは地面(下側)
正立フロントフォークでは天側(上側)
になります。
②アウターチューブ
インナーチューブにかぶさる形で着いているパイプです。
ここにシールが装着されています。
③スプリング
フロントフォーク内部にあります。
車種によっては螺旋の間隔が不均等になっています。間隔が狭い方、広い方の向きは決まっています。
分解時にはどちら向きだったか分かるように置きましょう。
この部品を交換するとサスペンションの固さが変わります。
(※尚、フロントフォークのオイルの量はサスペンションの固さとは無関係です。)
④トップキャップ
フロントフォークのトップ(一番上)にあるキャップ(蓋)です。
ハンドルの下辺りに見える、サスペンションの末端部の部品です。
車種によってはここにサスペンションのセッティングを変更できる機構があります。
サスペンションのオーバーホールは、この部品を脱着するのが鬼門です。
⑤パイプ
倒立フロントフォークのみ装着されています。
フロントフォークを分解&組み立てするには、このパイプを地面側に押し下げる必要があります。
通常二人がかりで作業しますが、パイプの先端が尖って危ないのとオイルで手が滑って力が入りにくいです。
これも倒立フロントフォークをオーバーホールする上での関門です。
インナーロッド
インナーチューブの中にあります。
フロントフォークの底の部分にボルトの部分で固定されており、通常のオーバーホールでは外す必要はありません。
本来は、写真右側のネジ山部にトップキャップが締めこまれています。
組み立て時は、ネジ山の長さが決まっています。(黄色の矢印↔の長さ)
ナットが一番左側にあれば良い。というわけではありません。
このナットの位置によってスプリングをあらかじめ縮めておく量(イニシャルプリロード)が変化します。
逆に言えば、プリロード調整機構の無い車種でもトップキャップを外してナットの位置を調整すればサスペンションの固さ(プリロード)を変えることができます。
サービスマニュアルに記載がある場合もありますが、分からなくなったときは左右のフロントフォークで同じ高さにします。
この場合は全締め込みの位置が規定でした。
オイルがサスペンション内部に満たされている時、インナーロッドの動き方がゆっくりになります。
この動きの性能がサスペンションの性格を決定します。
調整機構のあるサスペンションはロッド内部が空洞ですが、調整機構が無い場合は空洞の無いタダの棒状です。
アウターチューブに装着される各シール類の説明です。
※写真左側がサスペンションの地面側になります
①ダストシール
外側から見えるシールで、外部からのゴミや水の侵入を防ぎます。
②サークリップ(以下、クリップ)
ダストシールの奥にあります。
オイルシールが抜けるのを防止したり、シールが規定の位置に収まるようにする目印でもあります。
錆びない限り交換する必要はありませんが、頻繁に洗車したり高圧洗浄機を使うとダストシールの奥に水が浸入しクリップが錆び、それがオイルシールに移って劣化、オイル漏れの原因になります。
正立フロントフォークのバイクでは頻繁に錆びており、最悪の場合はクリップが錆びて外せなくなるので注意が必要です。
③オイルシール
これが傷ついたり劣化するとオイル漏れの原因になります。
サスペンションのオーバーホール=オイルシールの交換と言えます。
④ワッシャー
オイルシールが着座するための部品。
ワッシャーには表裏があります。どちらの向きかを指定する資料はありません。分解時によく観察しておきましょう。
ただし、間違えてもそれほど問題ありません。
⑤カラー
インナーチューブとアウターチューブの2本のパイプが重なり合って、スムーズにスライドするために必要な部品。
本来は2個ありますが、写真では片方は省いています。
基本的にはオーバーホール時でも交換しませんが、走行時に前から「コツコツ」するような感触がある場合は交換した方が良いでしょう。
交換すると新車時のようにサスペンションの動きが渋くなりますので慣らしが必要になります。
組み立て時にオイル添加剤等のグリスタイプのもの(広島高潤のヒートカットなど)をカラーに塗るとサスペンションの動きが良くなります。
必要な部品
フロントフォークオイルシール&ダストシール
フロントフォークをオーバーホールするには、一本当たりオイルシールとダストシールが一個づつ必要になります。
今回はアマゾンで購入できる「アリート」というメーカーのシールを購入しました。
以前、ドゥカティのディーラーで勤めていたときに納期や価格の関係で使用したことがありますが、性能や耐久性は純正同等以上です。
開封時、使用する直前にはシールについた埃やゴミを丁寧に取り除いて下さい。
今回の教材車(ドゥカティ・900SS/1996年式 倒立フロントフォーク)に適合する、インナーチューブ直径41mm用のシールのリンクを貼ります。ご自分のシールを探す際の参考にして下さい。
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そのほか、SKFというメーカーのフロントフォークシールも高性能&高耐久性で良好です。
水冷のドゥカティ・ムルティストラーダに純正採用された程の信頼性を誇ります。
多少高価ですが、ドゥカティの場合、純正のシールを注文するよりは安く済むでしょう。
尚、SKFのホームページで適合表を見ると外車であっても国産車種と同じシールが適合することがわかります。
外車でフォークシールが入手できなかったり、高価で諦めていた場合でも案外国産車の安価なシールが流用できるということです。
たとえば、ドゥカティ・パニガーレSTDのショーワ製サスペンションのシールが、スズキ・バンディット1250の純正シール(純正品番51153-47H00)が流用でき、価格も一個1,000円以下で購入できるといった具合です。
※他車種流用の場合、自己責任でお願いします。
注文する際はインナーチューブの外径を測ってから注文しましょう。
ノギスがなかったり、よくわからない場合はバイク屋さんや用品店に相談する手もあります。
サスペンションシールのメーカー(アリートやSKF)で適合表を検索すると参考になります。
「サスペンション シール アリート」でネット検索すると丁度よい適合表がヒットしますよ(^^)
シリコングリス(もしくはラバーグリス)
シールに塗って初期の組み立て直後の動作を良くしたり、サスペンションが動く際のシールへのダメージや紫外線による劣化を防ぎます。
シリコンもしくはラバーグリス以外の、金属部品用グリスを使うとシールのゴム成分にダメージが入るので、使用してはいけません。
アリートでシールを注文するとグリスが付属するので便利です。
フロントフォークオイル
今回はドゥカティ900SSが教材ですが、オイルメーカーにこだわる必要はありません。
G10と缶に記載されていますが、これはオイルの粘度を示す番号です。
純正指定通りの粘度のオイルを使うのが基本ですが、あくまでも好みです。
粘度が高いオイルを使うとサスペンションの動きはスロー(ハード)に、
粘度が低いと動きは速く(ソフト)になります。
サスペンションオイルは特殊で、他の部品に使うオイルと区別し易いように赤色に着色されている場合が多いようです。
多くのバイクはフロントフォーク1本あたり500cc程度しか使用しないので、一台分のフロントフォークをオーバーホールするには1ℓ缶が1本あれば十分です。
分解手順
さっそく、サスペンションの分解をしていきましょう。
今回は後輩からサスペンション単体の持ち込みでオーバーホール依頼を受けたので、車体から外す手順は割愛します。
文章の内、作業項目は青文字、補足&説明は黒文字、特に注意するところは赤文字にしました。
緑文字は2022年6月27日に書き直した箇所になります。
トップキャップの22mmナット部を反時計方向に回し、プリロードを最弱まで緩めます。
プリロードを最弱にすると、後の手順でトップキャップを外すために17mmスパナをかける場所が出現します。
組み立てた後に最初のセッティングに戻せるように元の位置をメモしておきます。
フロントフォークのダストシールを外します。
シールの端の部分にマイナスドライバーを当ててハンマーで叩きます。
分かりに難いのでアップしました。
ダストシールのこの部分にマイナスドライバーの先端を当ててください。
マイナスドライバーが滑ってインナーチューブやアウターチューブを傷つけないように気をつけてください。
オーリンズの場合はダストシール&クリップを最初に外す必要が無く、インナーチューブとアウターチューブを分離した後に作業します。
中にクリップがあるのでマイナスドライバーで外します。
この時もインナーチューブに傷を入れやすいので気をつけてください。
トップキャップを緩めます。
キャップを緩める工具は車種によりさまざまです。
本来は32mmディープソケットが必要ですが手元に無いので、今回はマックツールの特殊なレンチを使用して緩めました。
フロンフォーク単体で緩めるのは困難なので、車体に装着した状態で緩めるのがベストです。
その他、セパレートハンドルのバイクはハンドルを取り付けて回り止めして緩める方法もあります。
フロントフォーク末端部をクランプ締めすると、トップキャップのネジ部が固まって緩まないので、このようにキャップのネジ山部からなるべく下の方でハンドルを締め付けてキャップを緩めます。
車載で緩める場合はトップブリッジ(セパレートハンドルがフロントフォークに装着されている車種はハンドルも)を緩めてからトップキャップを緩めてください。
緩める時、ソケットやレンチが滑って外れるとトップキャップを痛めてしまいます。
工具をしっかり当てて作業して下さい。
また、トップキャップはアルミニウム製なので、電動やエアのインパクトレンチを使用するとトップキャップが必ず損傷します。
トップキャップを緩めるとこのようにアウターチューブから外れます。
この時、トップキャップから下の細かい部品の取り付け順を忘れないように写真に撮っておきましょう。
これはショーワでもスタンダートなタイプの倒立フロントフォークで、参考になると思いますので画像を大きめにしておきました。
自作の特殊工具をトップキャップの下のパイプにある穴にセットし、特殊工具を左手で下に押し下げ、右手でトップキャップを掴んで上に引き上げます。
工具が無い場合は2人で作業します。
パイプをパーツクリーナーで脱脂して滑らないようにし、一人がパイプを両手でつかんで力一杯!押し下げ、もう一人がトップキャップを引き上げます。
パイプのエッジ部で手を傷つけないように、厚手のゴム手袋の使用をお勧めします。
すると、この様に中身が出てきます。トップキャップにつながっているシャフトの末端側にナットが見えます。
緑色の部品の下に目標のナットがあるので、かなり強い力で引き出す必要があります。
手を離すとトップキャップがバネの力で元の位置に戻ってナットが隠れてしまうので、このナットをパイプの端のところに引っ掛けて元の位置に戻らないようにします。
オーリンズの場合はバネの力で戻ることが無いので特殊工具も力も要りません。
先ほどのナットの部分に14mmのスパナを、そのナットの上に17mmのスパナをかける場所(緑部)があるのでレンチをかけます。
14mmと17mmのレンチをかけたらお互いを持ち、ボルト&ナットの要領で両者を互い違いの向きに回して緩めます。
解りやすいように分解後の写真を載せます。
左のインナーロッドのナット部に14mmスパナを、右側のトップキャップの先端部(緑)に17mmレンチをかけます。
トップキャップには複数の丸い部品が入っています。この順番を間違えてはいけないので、分解後は極力そっとしておきましょう。
ちなみに、オーリンズの場合は、インナーロッドのナットと、プリロードを調整する部分にレンチをかけて緩めます。
ショーワの場合、インナーロッドのナットとプリロード調整部にレンチをかけて緩めると、プリロード機構の部分が壊れてしまうので気を付けてください。
すると、トップキャップ側が緩みシャフトから外すことができます。
トップキャップ、パイプ、スプリングを外して並べました。
スプリングはインナーチューブの奥に入っており、取り出し難いので、オイルを排出する時まで入ったままでもOKです。
スプリングは非対称形状の場合があり、取り付け向きがあります。間違わないように気を付けてください。
サスペンションの中にあるオイルを排出します。
スプリングが飛び出すので気を付けてください。
オーリンズの場合はインナーロッドの穴の中から細かい部品(円錐状の部品と細かいスプリング)が落ちてきます。
部品の紛失と組み立て順が分からないようになるので、ロッドの先端に指を当てて慎重にオイルを排出します。
組み立て順が分からなくなったら、もう一本のフロントフォークを分解して正規の組み立て順を確認して下さい。
14mmナットの着いている、インナーロッドを抜いたり押し込んだりしてください。
サスペンションの奥の方、インナーロッド(カートリッジ)入っているオイルを最後まで排出できます。
オイルが抜けて「ブシュブシュ」と音がしてロッドの動きが軽くなるまで作業して下さい。
だいたい、5往復程度で完全にオイルを抜くことが出来ます。
インナーチューブとアウターチューブを分離します。
左手でインナーチューブの下側を持ち、右手でアウターチューブを持って勢いよく引き抜きます。
「カンッ」という音がして少しずつオイルシールが抜けています。
一度では抜けないので何度が繰り返します。
トップキャップのあった穴からオイルが飛び散りますので布で穴を覆う等して服や作業場が汚れないように注意して下さい。
強く引いても抜けない時はオイルシールが固着しています。
無理に抜こうとすると内部のスライディングカラーが痛むのでシールをヒートガン等で温めて柔らかくしてから引き抜いて下さい。
ちなみに、オーリンズの場合は「カン!」という感触も無く「スルッ」と簡単に分離でき、ショーワと違いシールはアウターチューブに残ります。
分解できました。
それぞれの部品の向きが分かるよう、自分が把握できるように並べます。
インナーチューブ先端のカラーを外します。
マイナスドライバーをカラーの割れ目に差し込み、ドライバを90°捻って隙間を広げてから引き抜きます。
先端側のカラーが抜ければ、その次にあるカラーも引き抜けます。
元々あった上下の向きを変えてしまうと、当たりが変化してしまうので極力同じ向きで組み付けるように、外したら置き方に気を付けてください。
カラーは分解時に若干損傷します。そのまま使用しても特に問題ありませんが、神経質な方は純正でカラーを注文して新品に交換しても良いでしょう。
後の部品は簡単に外せます。
倒立フロントフォークの場合、カラー(2個)、ワッシャー、オイルシール、クリップ、ダストシールの順に外します。
これはショーワの場合で、オーリンズの場合はカラーはアウターチューブ内に留まったままで外す必要はありません。
オイルシール&ダストシール&クリップもアウターチューブに留まりますので、マイナスドライバー等で分解後に慎重に外します。
その際、テコの原理を使ってシールをほじり抜くので、アウターチューブの端を変形させたりシールの入る部分に傷をつけないように気を付けてください。
ドライヤーでシールを温めると外しやすくなります。
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オーリンズのシールを外す際、この工具を使用することをお勧めします。
アウターチューブの端部にかかる力をマイナスドライバー使用時よりも分散出来て損傷のリスクを減らし、先端の丸形状がシール装着部をえぐる心配が減ります。
通常は分解はここまで。オイルとシールのみを交換する場合はこれ以上の深入りは避けます。
ただし、オイルの汚れが酷く墨のように黒くなっている場合は内部のインナーロッドとレッグ部のアジャスターを根元から外してアウターチューブ内を空にして内部を徹底洗浄します。
インナーロッドはアクスルシャフトの通る穴の底部にあります。
ロッド本体が供回りするので、外すときは電動インパクトレンチ等が必要になります。
分解後の内部清掃について
汚れが少なく、ロッドを外さない場合はアウターチューブ内は溶剤で洗浄せずにオイルを抜くだけにします。
内部に溶剤が残っていると、新しく入れるオイルと混ざってしまいます。
溶剤を使うのであれば、インナーロッドを外してアウターチューブ内を空にしてから、内部を灯油で洗浄してからひっくり返してしばらくの間乾燥させます。
当店では分解洗浄する時は灯油で洗ってからパーツクリーナを吹き付けて完全乾燥させ、最後にエアガンで埃を除去します。
インナーロッドが「カートリッジタイプ」という複雑な構造になっている高性能サスペンションは、このカートリッジを分解することはできません。
状態の良し悪しはカートリッジを分解して内部の構成部品を点検する必要があります。
ある程度の走行距離を重ねているバイクや、オイル交換をしても平地走行でフワフワするような乗り心地が残る場合はインナカートリッジのオーバーホールが必要になります。
カートリッジのオーバーホールはスクーデリアオクムラさんを始めとするサスペンション専門店に依頼する必要があります。
その場合は車体からサスペンションを外した状態で専門店に郵送します。
フロントフォークオイルが黒くなる原因は熱によるものです。
フロントフォークは走行時に高速で圧縮運動を繰り返していますが、内部の空気が圧縮された際に熱が発生し、サスペンションオイルが高熱になります。
オイルは熱を食らうと黒く変質し、酷いとドロドロにます。
これがフロントフォークを分解したときに出る真っ黒なオイルや異臭の原因になります。
オイルが劣化すると、峠道やデコボコの多い道路、サーキットで走行した時の乗り心地が悪くなる可能性があるだけでなく、サスペンション内部のカラーが消耗し、最悪はインナーチューブのメッキが剥がれる可能性があります。
オイルが漏れたりカラーが消耗しない限りシール交換などのオーバーホールの必要はありませんが、少なくともオイル交換は定期的に(乗り方やバイクによりますが3万kmごと)行うことをお勧めします。
インナーチューブの錆を除去する
インナーチューブのメッキ部分に錆がある場合や、走行時にオイル漏れが発生する場合はチューブを磨いて表面を平らにします。
ここに錆があるとシール内部が走行中に損傷してオイル漏れの原因になります。
磨くこと自体がオイル漏れの要因になることもあるので、錆びが無くオイル漏れが発生していない場合は磨かないようにしてください。
灯油の中にインナーチューブを沈めた状態でゴミの付着していない耐水サンドペーパー(1200番以上に細かい番手)で磨きます。
インナーチューブをサンドペーパーで優しく包み、手全体の面積を使って均等な力で擦ってください。
縦方向に磨くとオイル漏れしやすくなるので画像のようにで横方向に磨きます。
少し磨いたら錆びや傷のある部分を指でなぞり、なだらかな感触になったら磨くのを止めます。
錆びや傷の箇所が少なければサンドペーパーを使用せず、その部分のみをオイルストーンで優しく研磨してピンポイントに平滑化するのも有効です。
普段は外部に露出していない箇所のメッキ部は傷や錆びが無いので、磨かないようにします。
可能な限り、新品の傷が入っていないインナーチューブに近い表面状態に近づけるように意識します。
オイル漏れの原因の多くは走行中にフロントタイヤが巻き上げた砂が飛んでインナーチューブに傷を付けることです。
フロントフォークブーツのある車種は傷が入らないのでオイル漏れしにくいです。
磨くこと=傷を付けることになるので、メッキ表面の突起物を除去する必要が無い限り磨かない方が良いでしょう。
その他、しばらく乗らなかったバイクのサスペンションからオイル漏れすることがあります。
これは内部にかかっている圧力が長い時間をかけて外部に漏れてきている状況なので、乗って漏れなければシール交換する必要はありません。
もしオイルシールを交換してもオイル漏れが再発する場合はインナーチューブ表面に直しきれない凹凸が発生しています。
その場合はサスペンション専門店に相談するかメッキ業者に依頼して再メッキする必要があります。
その他、サーキット走行したり、車重が重たくインナーチューブが細いバイクで強いブレーキをかけると一瞬だけサスペンションがしなります。
そのときにシールがオイルを受け止めきれずに内部の圧力でオイルが漏れることがあります。
この場合はシール交換やインナーチューブの修理をしても再発するので仕方無しとします。
インナーチューブは錆びないように日ごろからメンテンスを欠かさないようにしましょう。
以下の投稿も参考にしてください。
シール組付け手順
ダストシール&オイルシールにグリスを塗ります。
今回はシールキットに付属のグリスを使いましたが、無ければシリコングリスorラバーグリスを塗布します。
ケミカル専門メーカーではサスペンションシールに塗ると性能アップできる。という謳い文句も商品もあるので、この機会に試しても良いかもしれません。
間違っても金属用に使うグリス(モリブデングリスやマルチパーパスグリス)を使用してはいけません。グリスの成分がゴムを劣化させ、早期のオイル漏れに繋がります。
オイルシールの内側にはグリスを多めに、溝部分が埋まる程度に塗ります。
その他の部分とダストシール全面にはグリスを薄めに塗ります。
全体に薄く塗るのは、シールをサスペンションに装着する際にはまり易くするためと、紫外線から守って寿命を延ばす理由です。
その他、ダストシールの内側に塗るとサスペンションの動きを良くすることもできます。
塗りすぎるとゴミがシールに付着してインナーチューブにダメージが入るので気を付けてください。
また、オフロード等砂地を多く走るバイクでゴミや砂が噛みこみやすい乗り方をするのであれば、ダストシールにグリスを塗らない方が良いでしょう。
インナーチューブの凹凸部や先端部にビニールテープを巻きつけます。
これは、オイルシール挿入時に、インナーチューブのエッジ部でシール内側の弱い部分が傷つかないようにするためと、シールのリップ部がめくれてしまわないようにする為の措置です。
オイルシールを入れた後はテープを外します。
尚、厚手のビニール袋をインナーチューブに被せることでも代用できます。
ダストシール→クリップ→オイルシール→(テープを外して)ワッシャー→カラーの順で挿入します。
アウターチューブ内や各部品を綺麗に脱脂した場合、装着前にカラーにオイルやグリスを塗ると良いでしょう。
シールの向きに気を付けてください。
倒立フロントフォークの場合、ダストシールの斜めになった形状の方を地面側、
オイルシールは平らでメーカー刻印の入った方が地面側になります。
正立フロントフォークでは向きが逆になります。
オイルシールの刻印のある方がダストシール側(外側)
溝のある方がオイルに浸かる側(内側)になります。
間違うとオイルが漏れます。
アウターチューブに打ち込んだシールは、新品であっても外してはいけません。
やむを得ない場合は装着し直しても使え無くないですが、その後のシール性能は保証できません。
この後の打ち込み作業の前にもう一度向きを確認し、間違っていれば今のうちに装着し直しましょう。
これはプロでも気を抜くと間違うので、本当に気を付けてください。
アウターチューブをインナーチューブに挿入し、カラーとワッシャーをアウターチューブに挿入します。
指ではカラー&ワッシャーは入らないので、ワッシャーをシールドライバーで叩いて挿入します。
カラー&ワッシャーをオイルシールごと打ち込もうとすると失敗することがあるので必ず別々に挿入しましょう。
片手作業で撮影したので写真がぶれています…
次に、オイルシールをアウターチューブにできるだけ奥までしっかり均等に挿入してから、シールドライバーで叩きこみます。
シールはクリップの入る溝が見えるまで叩き込んでください。
オイルシールを完全に挿入したらクリップを装着します。
ダストシールを指で挿入します。
その後、フロントフォークを動かしてスムーズに動作するか確認します。
インナーチューブにグリス跡が付くので、このタイミングで余分なグリスをふき取ります。
この時、パーツクリーナーは決して使っていけません。
表面に油分が無くなるとインナーチューブが錆びるばかりか、シールが傷ついてすぐにダメになります。
乾いた布で拭き、全体が少しヌルヌルしている位が丁度良いです。
基本的にオーリンズでも同様の手順ですが、インナーチューブを組み付ける前にアウターチューブにシールを組むことができるので、シールドライバー等の特殊工具は不要になります。
また、正立フロントフォークでも同様の手順になります。
サスペンションオイルを入れる
フロントフォークを立て、オイルを入れます。
オイルを入れる量は、車種毎に異なります。
「(車種) フロンフォーク オイル量」などのワードで検索すると、メジャーな車種ならヒットします。
メスシリンダーや計量カップ等で規定量のオイルを入れましょう。
900SSの場合の規定は、
オイル量440cc オイルレベル108mmです。
多少、純正指定値から異なる量のオイルを入れてしまっても問題ありません。オイル量はサスペンションが完全に沈み込む量(フルストークの長さ)を決定するので好みの量で調節してもOKです。
多く入れてもサスペンションが固くなるわけではありません。
ただし、入れすぎると結果的にタイヤがスリップし易くなり危険なので控えましょう。
また、サスペンションによっては左右でオイル量が大きく異なる場合もあるのでしっかり調べましょう。
左右のオイル量が同じ場合は、左右フロントフォークで量をきっちり合わせることが重要です。
オイル量の他に、オイルレベルという指定の仕方もあります。
オイルレベルとは、フロンフォークを最も縮めた状態でスプリングとパイプを省いたときの、アウターチューブの先端からオイルの高さまでの距離を言います。
オイル量を基準にして充填すると、分解時にサスペンション内部に残ったオイルなどで最終的なオイル量に誤差が生じます。
オイルレベルを基準に充填すると誤差なく規定値に合わせたり、左右フロントフォークのオイル量をきっちり合わせることができます。
全ての車種にオイルレベルの規定値があるわけではありませんが、もし記載あればこれを基準にしましょう。
オイルレベルの測り方はアイディア次第。
割りばしをゲージにして少しづつオイル量を調整することもできます。
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☝プロはこういった工具を使ってスピーディ&確実にオイルレベルを合わせます。
倒立フロントフォークの場合は、サスペンションをフル圧縮(最も短い状態)にしてオイルを口一杯まで入れます。
この状態で少し置くと、アウターチューブとインナーチューブの間の隙間にもオイルを充填できます。
チューブの隙間から空気が出なくなったら次の画像の様にインナーロッドを上下させてロッド内部のエア抜きをします。
これは、インナーロッド内部に溜まった空気を抜きサスペンションを正常に動作させるための作業です。
インナーロッドの穴からオイルが噴出するので指で穴周辺を覆いながら作業します。
最初はロッドがスカスカ動く感じがしますが、内部のエアが抜けてオイルで満たされると動きがゆっくりになります。
スムーズ&スローにロッドが動くようになればエア抜き完了です。
エア抜きが完了したら余分な量のオイルを綺麗な容器に分けます。
オイルレベルを確認し、狙い通りの高さであればオイル充填の作業は完了です。
オイル量を基準に充填した場合でも、最初にバラシた方のフロントフォークのオイルレベルを測っておいてください。
もう片方のフロントフォークをオーバーホールする際に同じオイルレベルに合わせれば、2本とも同じオイル量に合わせることができます。
組み立て手順
オイルを充填したら、スプリングを入れます。
螺旋の間隔狭い方&広い方の向きが元の通りになるように気を付けてください。
車種によっては先にパイプを入れる場合もあります。(たぶんサスペンションメーカーがマルゾッキの場合です)
尚、スプリングの全ての面(特に両端の平らな面)をツルツルに磨いて鏡面加工したり、サスペンション内部に使えるような低フリクション性能のあるグリスを塗布するとサスペンションの動きが良くなり性能UPします。
パイプを入れます。向きがあるので気を付けてください。
今回は特殊工具を装着した状態で入れました。
☟次は最も難しい、最後の鬼門の作業です。
長めのラジオペンチをパイプに挿入し、インナーロッドを掴んで伸ばします。
この時、ロッドからオイルが噴出するので目に入らないように気を付けてゆっくりロッドを伸ばしてください。
特殊工具でパイプを地面側に強く押しながら、ペンチで掴んだインナーロッドを限界まで伸ばします。
基本的に、分解時にトップキャップをインナーロッドから緩める時に行った作業の逆手順です。
工具が無く二人作業で行う場合、パイプの掴む部分をしっかり脱脂しゴム手袋をはめて十分に気を付けて慎重に作業して下さい。
外した時同様、ナット部をパイプの端に引っ掛けて保持します。
さらっと次の段階に移りましたが、かなり難しいです。
失敗してサスペンションを倒してオイルを床にぶちまける
ロッドからオイルが噴出してオイルレベルが狂う
服や床がオイルまみれになる
オイルが目に入る等など…恐ろしい事が待っているので本当に気を付けて、集中して作業してください。
いくら難しくても引き返すことはできないので、精神力が問われます。
今回の場合、私は作業慣れしているのと工具が活躍したことですぐに出来ましたが、経験の無い場合は鬼門になると思います。
また、パイプの端に引っ掛けたナットが不意に外れてパイプが飛び出しオイルが噴出することがあります。
次の段階を完了するまで慎重に作業しましょう。
インナーロッドのナットがパイプから外れないように、慎重にトップキャップを取り付けます。
これで山を越えました。
ここでもナットが不意に外れるとパイプとキャップに指が挟まれてケガをする可能性があります。
手元に注意して下さい。
外した時とは逆手順で、インナーロッド側の14mmナットにスパナを、トップキャップに17mmスパナを取り付けてお互いを締め付けます。
締め付けトルクの指定はあるにはありますが、スパナで使用できるトルクレンチは特殊なので手締めでOKです。
少し力いっぱい程度の力で締め付けましょう。
締め付けたら、パイプに引っ掛けたナットを外してトップキャップにパイプをはめます。
多少衝撃があるので指を挟んだり、はねたオイルが目に入らないように注意して下さい。
トップキャップを手で締めこみます。
締め込む際、キャップからオイルや空気が逃げないようにするOリングがネジ山に噛みこんではみ出してしまい、損傷することがあります。
ここまで作業していればキャップのネジ山がオイルでギトギトなので大丈夫だとは思いますが、念のためOリングにオイルやシリコングリスを塗ってからキャップを締めこむと良いでしょう。また、次回にキャップを外しやすくなったり水分の侵入を防ぐメリットもあります。
キャップは工具で強く締め込む必要はありません。エンジンオイルを注入するフィラーキャップを取り付けるときの感覚で締めこめばOKです。
内部のオイルと空気を逃がさないようにできれば十分ですし、車体に取り付けてトップブリッジを規定トルクで締め付ければ緩みません。
サスペンションを逆さまにひっくり返し、30秒程待ちます。その後ひっくり返し、30秒程待ちます。
これはサスペンションの細部にオイルを行き渡らせてエア抜きをするためです。
ついでにトップキャップからオイル漏れしないか確認することもできます。
サスペンションを強く押し、オイル漏れしないか確認します。
何度かインナーチューブを拭き取ってオイルやグリスの、リング状の跡が付かなければオーバーホール成功です。
もしオイル漏れをする場合、シールの組み方が間違っていなかったり脱脂をしていないのだとしたら、インナーチューブが曲がっている可能性があります。
インナーチューブに定規を当ててみて、ピタッと当たらず定規との隙間が空くようでしたらフロントフォークの交換が必要になります。
最後に、緩めたプリロードを元のセッティングに戻します。
サスペンションは二本で一台分です。もう片方のオーバーホールも頑張りましょう。
二本のサスペンションを並べて高さを比べます。
内部の部品の組付けを誤まると高さが異なってしまいます。
車体に組付けたときに気が付いて分解し直し….にならないように気をつけましょう。
オーバーホールするとサスペンションの動きが確実に良くなります。
片方のみのオーバーホールでは性能的に残念なので、両方ともされることをお勧めします。
作業は以上になります。
他にも不明な点があれば問い合わせフォームまでお気軽にご連絡くださいm(__)m
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