「高く買い取ります」は本当?

バイク業界コラム

バイクの買取業者の広告にある「高く買い取ります」というフレーズ

これは本当でしょうか?

答えは、「高いかどうかは誰にもわからない」です。

私は以前にバイクの買取業者で査定士として働いていました。
今回はその経験を活かし「バイクの買取事情」についてディープに解説します。

バイク業界の仕組み

一般的なバイク屋さん(販売店)の収益には「販売」と「工賃」の二本柱があります。
修理の依頼はお店を構えていれば舞い込んできますが、販売をするにはバイクを仕入れなくてなりません。

とはいえ、世は買取戦国時代。販売店がユーザーからバイクを直接買い取れるチャンスは中々ありません。
そこで業者オークションを利用し、欲しい車種を競売で落札し仕入れています。

その「業者オークション」にユーザーから直接買い取ったバイクを出品するのが、バイクの買取専門業者です。

尚、買取メインの業者も、普通の販売店同様に店頭販売をしています。
そこに並んでいるのは、買取値が高過ぎて業者オークションでは赤字になるので店頭販売せざるを得ないバイク達が多いです。
裏を返せば「買取値が高いバイク」=「良いバイク」なので、大手買取業者の店頭でピカピカ状態で販売されているバイクは高品質な場合が多いです。

ただし、購入後のメンテナンスに困らないように、アフターサービスのレベルをよく見極めてから決めることをお勧めします。

買取の流れ

ここでは買取業者から見た目線で一連の流れを紹介します。ただし、あくまでも一般的な流れであり会社によっては異なるかもしれません。

 

①ネット等の広告で買取希望者を集客する

ユーザーが「一括査定サイト」にバイクの見積もり依頼をすると、サイトに登録している買取業者にユーザーの情報が届きます。

そこに連絡先などの情報があるので、買取業者はユーザーにコンタクトを取ります。

 

②見積もり額を伝える

車種、年式、状態をユーザーから聞いて業者オークションで過去落札額を調べ、そのバイクがオークションでいくらで売れるか?を予測します。

電話口では予想を基におおよその金額を伝えます。
落札相場の中でも幅はあるものですが、高めの金額を伝える傾向にあります。

 

③自宅訪問する

自宅訪問の了解を得たら最寄り拠点の査定士にユーザーから連絡し、アポイントを取り2tトラックで自宅訪問します。

私は訪問で多い時に1日4件、400km走っていたので中々過酷な仕事でした。

 

④査定する

バイクが盗品で無いかを確認したら査定します。

エンジンはかかるか?事故の形跡は無いか?錆びの程度は?等をメインに確認し商品価値を見定めます。

 

⑤買取額を会社を確認する

バイクの状態を会社に電話で伝え、買取額を聞きます。

とはいえ、「◯◯円で査定額を伝えて下さい」等の丁寧な返答はなく、「◯◯円までかな?」という丸投げ回答が殆どです。
時には「いくらで買うかは自分次第でしょ?」と意味不明な要求をされることもありました。

尚、会社に無断で査定額を決めると怒られます。

 

⑥買取希望額をユーザーに提示する

そう。査定額でなく「いくらで買いたい」という査定士側からの買取希望額を伝えるのです。
もちろん、営業ノルマを達成するには安く買わなくてはいけません。

でも明らかに安く提示すれば車庫を締められて「お引き取りください」で終わります。
それが怖くて高く提示すると表情がこわばっているので、ユーザーは安く提示されていると思いバイクに鍵をかけて「もういいよ」で終わります。

ならばということで、業界の仕組みからオークションでの落札相場額まで打ち明けた上で、マージンギリギリの金額を提示すれば信用してもらえるだろうと思い、何度か試しましたがあまり意味はありませんでした。

ユーザーは「一円でも高く売りたい」ので、本人が安く感じるのであれば何円積まれても「安い」のです。

 

⑦商談が成立する

ここに至るまでの過酷な道のりが伝われば幸いです。何とか買取契約が成立すると査定士の気分は最高潮です。
仕事の一番楽しい瞬間でもあります。

契約後の支払いや名義変更の流れは防犯上明かしませんのでご了承下さい。

 

⑧バイクをトラックに積み帰社する

買取屋さんのトラックの荷台にバイクが積まれいるのは目にしたことあるかも知れませんね。どこの業者も買取成立したバイクは同じように積んで帰ります。

でも実は、買取はトラックに積むまで気が抜けません。以前、契約を結んだのに積み込む直前になって「やっぱり売るのやめる」と言われる愕然とする事がありました。

余談ですが、よく会社から「買うまで帰ってくるな」と言われ、何時間も粘って商談したりユーザーに土下座して「買わせて下さい」と頼み込んだりもしました。

今は働き方改革とか、職場にモラルを重視する良い風潮が流れていますから、私が買取していた時のようなことは少ないのかもしれません。

 

真の買取適正価格は売れるまで分からない

買い取ったバイクの真の価値は、新たなユーザーに売れるまで分かりません。

300万円で買い取った高級車でも1年売れなければ、値下げすることになります。
逆に、無料で引き取ったバイクを店頭に並べたら意外に売れることもあります。

この場合、タダで引き取ったバイクには実は価値が有り、買取価格が安かったことになりますし、
高級車に300万円の買取価格をつけたのは高く買い取ったことになります。

業者に売ったバイクを最終的に買うのは、同じユーザーです。
そのバイクの「本当の価値」を決めるのもユーザーなのです。

「本当の価値」に合わせて買取価格を決めて提示するのが本筋だと、私は思います。
しかし買い取る時点で次のユーザーにいくらで売れるかは、未来の事なので誰にも分りません。
「本当の価値」に基づいて「買取適正価格」を査定士が買取現場で提示するのは不可能なのです。

 

「高い」「安い」は気持ち次第

高いか安いかは主観でしかありません。

買い取る側が「これは高い価格だぞ!」と思って提示した金額であっても、売る側が安いと思うなら10万円でも100万円でも「安い」のです。

極端な話をすれば感じの良い査定士から提示された金額は「高い」と思いやすいし、嫌な査定士(or頼りない査定士)を前にすると「安い」と受け取りがちです。

でも実際は慣れた感じの査定士は簡単には値段交渉に応じませんし、頼りない印象の査定士は買取台数を達成するために高い金額で提示することが多いです。

「高い」と思うか、「安い」と思うかは売り手の気持ち次第です。

 

買取り業界の実態

正直なところ、買取り業者は一台でも多く買い取り、一円でも安く買い取りたいものです。
CMでは良いことを謳っていますが、業者側も買取でご飯を食べているので当然といえば当然のことです。

レベルの高い査定士は多くのバイクを安く買い取りますし、仕事のできない査定士は買い取る台数も少なく買い取り価格も高くなります。

また、「無料でご自宅までお伺いします」と言いますが、確かに出張料金を取ることはありません。
しかしながら自宅までトラックを動かすガソリン代、高速代、人件費、広告宣伝費を想像してみてください。

業者を自宅に呼びつけて査定だけさせておいて「値段を聞きたかっただけだから」と突き返す人がいますが、それで「分かりました」と簡単に引き返す業者はいません。

出張買取は遊びではなく、仕事なのです。

広告では散々おいしいことや都合の良いことを並べていますし、その通りに受け取るように仕向けています。
とはいえ、買取り業者がNPOでないのは明らかです。
査定というサービスを受けるには相応の対応を覚悟しましょう。

 

現実的な買取り価格を知る方法

最後に、気軽に現実的な査定価格を知る方法を紹介します。
バイクを買うときにはGooBIKEなどのサイトを利用して販売価格を調べると思います。

そこであなたの売りたいバイクの車種や年式、走行距離やカスタムなどを加味して同じ様なバイクを検索しましょう。

メジャーなバイクなら近いコンディションで何台かヒットするかと思います。
それらの平均価格を計算し、販売価格(諸経費を除いた車体のみの価格)÷2します。
これが現実的な買取価格になります。

一般的な傾向として、店頭販売価格の半分位がバイク屋さんの買取希望価格になります。

買取ったバイクを商品車にするには修理する部品や人件費が必要ですし、ネットにアップするには広告費もかかります。
販売したあとにクレームが発生した場合に補填する費用も確保しておきたいところ。

そうなると仕入れ価格の倍の値段で販売しないと割に合わないのです。

 

他にも、出張買取を利用せず自分の足で買取専門店や販売店に行って査定してもらう手もあります。
買取業者は出張すると多大な経費がかかり、いったん自宅訪問すると退散することは難しくなります。
しかし客が自社に来て査定を依頼する分には、値段が希望に合わずに引き返そうとすると案外あっさりしているものです。

査定を依頼する前に「値段を知りたいだけ」と伝えておくのも忘れずに。

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