ドゥカティ749の水冷エンジンのタイミングベルト交換の手順を解説します。
基本的に999と同じ型のエンジンなので手順は両車で同じです。
タイミングベルトを使用した水冷エンジンでは大まかな流れは全車共通で、カムシャフトの位置決めをする特殊工具がエンジンごとに異なります。
パーツリストを参照して頂き、それぞれに合った工具があれば一通りのバイクで同様手順で作業できます。
※2023年4月15日追記
1098~1198、1200㏄のディアベル、ムルティストラーダ、モンスター、その他水冷のハイパーモタードやモンスター等で共通のタイミングベルト交換手順を追加しました。
ただし、ムルティストラーダ1260やXディアベルなどの可変バルブタイミングを採用したバイクは手順や工具が全く異なります。
ディーラー以外では整備できなので絶対に触らないでください。
空冷エンジンのベルト交換については以下のリンクをご覧ください。
水冷エンジンのタイミングベルトについて
ドゥカティのエンジンは大まかに次の種類に分かれていています。
- ベベル
シリンダーヘッドの駆動にベベルギアを使用しており定期的なメンテナンスは不要。 - 空冷
空冷2バルブのシリンダーヘッドをベルトを介して駆動する。定期的にベルトのメンテナンスや交換が必要。 - 水冷
水冷4バルブのヘッドを空冷同様にベルトで駆動する。定期メンテナンスに純正特殊工具が必要でハードルが高い。
水冷の中でも、1098以降に登場した水冷エンジンをテスタストレッタと言います。
ムルティストラーダやディアベル、モンスター1200に搭載されている公道向けレース派生エンジンはテスタストレッタ11°(イレブンディグリー)と言います。
- スーパークアドロ
パニガーレ1199、1299、899、959、V2に搭載。水冷2気筒でベルトを使用しないので定期的なメンテンス不要で抜群の耐久性を誇る。 - デスモセディチストラダーレ
パニガーレV4に搭載。クアドロ同様に定期メンテナンス不要。
ベベルとパニガーレ系エンジンは基本的にオイル交換をしていれば大きなトラブルは少なく、国産車と同じメンテナンスで大丈夫です。
空冷と水冷は定期的なタイミングベルトの交換が必要です。
空冷は当ブログ内で以前に投稿した解説を参考にして頂き、バルブタイミングを決めるカムシャフト用の特殊工具はボルトを加工して自作するか、一般的に通販で購入できる特殊工具を使用すれば交換できます。
問題は水冷ですが、これはカムシャフトの位置決めをするドゥカティ純正の特殊工具が無いと正確にベルトが交換できない上、その工具は非常に高価です。
今回の解説でも特殊工具を使用していきますが、専門店に依頼しても工賃を払った方が工具代より安くつきます。
依頼先が無い場合や自分でトライしたい方は以降解説する手順を参考にしてください。
必要な工具
水冷エンジンのタイミングベルトを交換をするにあたり、特別に必要な工具を説明します。
タイミングベルトの張力を測定するにはスマートフォン用の音波測定アプリを使用します。
アプリは空冷のタイミングベルトの張りを点検する手順を解説したページで紹介しています。
ドゥカティ純正特殊工具 品番887131791 定価税込み約54,000円
749と999に使用できる、カムシャフトのバルブタイミングを規定位置に固定するツールです。
前バンクと後バンクそれぞれでツールが異なるので、この品番で純正部品と同様に注文すれば画像にある2点が入荷します。
2022年時点では廃盤になることなくスムーズに入手できました。
外車に対応する純正部品通販サイトか、一般の方向けにドゥカティ純正部品を販売してくれるドゥカティディーラーで購入できます。
タイミングベルトと同時に注文しましょう。
この工具を使用するエンジンかどうかは、車種ごとのパーツリストの序盤にある工具のイラストが記載されたページを確認します。
パーツリストに「887131791」があればそのバイクにはこの工具を使うということになります。
2008年式等の初期型1098に使用(流用)することも可能です。
年式に応じたパーツリストを参照し、使用する工具を確認してください。
この工具だとセンターにある固定ボルトは使用できませんが特に問題無く使用できます。
999~初期型1098は両バンクのカムシャフトが共通なので、バルブタイミングの合わせ方は以下の要点の通りです。
- ピストンが圧縮上死点にある状態で、
- ベルトを100~80Hz近辺で張っている時に、
- 圧縮上死点にあるシリンダーのカムシャフトの横溝がIN・EX共に一直線にあり、
- なおかつカムシャフトの縦溝が上側(前バンクなら進行方向、後ろバンクなら天井方向)にあること。
なので、特殊工具が無くとも上記の要点を満たせば正確にバルブタイミングを合わせることができます。
圧縮上死点は、前バンクであればタイミングベルトのプーリとエンジンカバーの刻印が一致している箇所で、後ろバンクであればそこからクランクシャフトを正回転(ウィン!と音が鳴らない方向)に回して最初にピストンが一番高くなった位置です。
特殊工具無しで正確な圧縮上死点を探すには、プラグホールに棒を入れてダイヤルゲージを使用して計測してください。
カムシャフトの溝の直線状態はミクロン単位で正確に合わせてください。
ベルトを張るとカムシャフトが回ってしまうので注意が必要です。
なので、特殊工具無しでは殆ど不可能になります。
※2023年4月15日追記
ドゥカティ純正特殊工具 品番887651623 定価税込み約24,000円
後期型1098、1198、1200ccのムルティストラーダやディアベル、モンスター等に使用します。
その他、821ccの水冷エンジンを搭載した車種にも使用可能です。
後期型1098以降に登場した水冷エンジンの殆どはこの工具を使用します。
この工具一つを前後バンクで使い回します。
注文から入荷まで半年かかりました。メーカーも殆ど生産していないので希少な工具です。
購入する場合は海外の通販サイトから購入することもあると思うので価格は参考程度にしてください。
初期型1098はカムシャフトの工具取付箇所の形状が異なるうえ、前後バンクのカムシャフトがそれぞれ別なのでこの工具は使用できません。
後期型1098以降は、前バンクが圧縮上死点にあるときに両バンクのカムシャフトの溝が一直線に揃うようになっています。
なので前後バンクでのカムシャフトの違いは、プーリーを取り付ける部分のキー溝の位置が違うだけと思われます。
カムシャフトのセンターにM6ボルトを装着できるネジ穴があればこの工具(887651623)を使用し、無ければ887651524を使用します。
それも無ければ先ほどの887131791で代用することもできます。
バルブタイミングが正確に合っていることを確認するには以下の要件を満たす必要があります。
- 前バンクのピストンが圧縮上死点にある状態で、
- ベルトを100~80Hz近辺で張っている時に、
- 前後バンクの全てのカムシャフトの横溝がIN・EX共に一直線にあり、
- なおかつカムシャフトの縦溝が上側(前バンクなら進行方向、後ろバンクなら天井方向)にあること。
クランクシャフト固定ツール(TDCポジションクランクシャフトホルダー)
クランクシャフトの位置をタイミングベルト交換時の規定位置(前バンク圧縮上死点)に合わせてロックするツールです。
純正品でなくとも、画像のようにAmazon等の通販サイトで購入できるツールで代用できます。
これが無くてもクランクシャフト側プーリにある刻印を合わせて前バンクピストンを上死点にピッタリ合わせれば作業できます。
ただし、作業中にクランクシャフトの位置がずれる危険性があるので予算に余裕があれば用意することをお勧めします。
これひとつで空冷&水冷に対応するので複数のドゥカティをメンテナンスする場合は欲しいツールです。
尚、これを使用せずに作業した場合、クランクシャフトの角度に2°以上の誤差が生じ、バルブタイミングが遅角or進角します。
結果、極端な低回転型か高回転型になります。
大きく間違えなければエンジンブローはしませんが、以前とは全く異なるパワーカーブになります。
クランクシャフト回転ツール
左エンジンカバーにある小窓を取り外し、その奥にあるクランクシャフトに取り付けて使用します。
これがあるとクランクシャフトを直接回すことができるので便利です。
マルクさんの通販サイトで購入することができます。
型番14-K420のツールでも同じ仕事ができるので予算に応じてチョイスしてください。
タイミングベルトプーリーの特殊ナットに合うリングナットソケット
マルクさんの14-K426、カムプーリーナットツールに付属するソケットです。
上のクランクシャフト回転ツールの代用として使用できます。
どちらか一方があれば作業できるので無理に揃える必要はありません。
タイミングベルトの張りを最終決定する工程をスピーディに完了したいときに使用します。
どちらも用意したくない時は、レーシングスタンドで後輪を浮かせた状態でギアを6速に入れてタイヤを回すことでクランクシャフトを回すこともできます。
TONE製の26mmメガネレンチ 品番HPCS-26
amazon等で通常納期で購入できます。
タイミングベルトの張りを調整するテンショナープーリーを回す際に使用します。
先端の細い特殊なモンキーレンチで対応できなくはないですが、あると便利。
メガネ部分を一部削ってプーリーに装着しやすいように加工しました。
今回以外に使用することが無く、強度を必要としないのでギリギリまでスリムに削ってしまいます。
タイミングベルトを交換する必要性を判断する
基本的にタイミングベルトは車検毎に点検します。
タイミングベルトカバーを外します。
空冷であれば外す部品は少なくて済みますが、水冷は多くの部品を取り外さなければいけません。
ここまでの手順は車種によるし、解説無しで到達できる程度のスキルが必要なので説明は省きます。
ベルトを交換したり、張り調整をする場合はスパークプラグを取り外してください。
交換時期は5~6年毎。もしくは20,000km前後を目安とします。
加えて、ベルトの表面の状態もチェックします。
画像のようにベルト表面の赤い刻印が判読できない程度にカスれていたり、表面がツルツルしたり、縞模様になっている場合は消耗しています。
新品は赤い刻印が密にプリントされており、表面が滑らないゴムっぽい質感です。
同じ走行距離でも車体によって消耗度合は異なってきますが、多くの場合はベルトの張り過ぎが原因で消耗します。
欲を言えば1年毎にベルトの張りを点検し、80Hz近辺に張りを合わせておくと6年先まで消耗しないようにすることもできます。
前回の交換から2~3万km程度走っていたとしても、消耗や損傷が少なく、通勤や毎週のツーリングなどで頻繁に使用していれば、張り調整を定期的に行っていれば交換しなくても切れることはありません。
どちらかというと経年劣化による突発的なベルト切れの方が怖いので、車検3回に1回程度の交換を心がけましょう。
画像のように消耗が深刻な場合や、ベルトカバー内に小石が侵入してベルトが傷ついている場合は期間や走行距離が交換時期に来ていなくても換えた方が良いです。
特にサーキット走行時にグラベルに侵入して小石まみれになったときは要注意です。
メーカー規定のタイミングベルト交換時期は車種によって様々です。
ご自分のバイクのベルト交換時期がオーナーズマニュアルに記載されている場合はそれに従いましょう。
ただ、同じバイクでも純正タイミングベルトが年々改良されて耐久性が向上していくので、新車時にメーカーが定めた規定時期よりも後年の方が長いスパンで考えても大丈夫な場合もあります。
ベルト交換時期が車種によって違う理由は、ベルトを装着した際のアール(曲がりのキツさ)の大小やベルト周りの冷却能力が違うからです。
もしくはメーカーの考えが年代によって変わることもあります。
先ほど説明した交換時期以外にも、4年前後一切エンジンを動かしていなかった場合にいきなり走行するとベルトが切れる危険性もあります。
しばらく放置したあとは走行距離や期間に関わらずできるだけ早めに交換したほうが安全です。
車検3回毎、もしくは20,000km前後の基準は当方が経験則で決めたもので絶対の安全性は保障できません。
あくまで、これくらいを目安に交換を検討すると良い、程度のニュアンスでご理解下さい。
交換手順① 特殊工具のフィッティングを事前に確認する
タイミングベルトを交換することになったら、工具とベルトを揃えましょう。
準備が整ったら、まずはクランクシャフトとカムシャフトがベルト交換するときの規定位置にロックできるか確認します。
ドゥカティは前バンクが圧縮上死点にあるときにタイミングベルトを脱着するように決まっています。
スパークプラグを外してからクランクシャフトを回し、クランクシャフト側タイミングベルトプーリにある刻印と右エンジンカバーの刻線を合わせ、左エンジンカバーの小窓を外してクランクシャフト固定ツールを装着します。
新品のツールには多少のバリがあるので、クランクシャフトに思うように装着できない場合があります。
今のうちに間違いなく前バンク圧縮上死点に合わせてロックできるか確認しておきます。
新品のベルトを装着するまでクランクシャフトを動かす必要が無いので、無事にツールを装着できたらそのままにします。
カムシャフトの位置をロックするツールを装着します。
現状のバルブタイミングがずれていなければ問題無く装着できるはずです。
999系では2つあるツールの内、「VERT」刻印のあるほうを後ろバンク、「ORIZ」を前バンクに装着します。
ディアベル以降のテスタストレッタ11°エンジンでは前後バンクで共通位置になるので1つのツールで前後バンクを合わせることができます。
タイミングベルトを外す前に、各ツールを問題無く装着できることを確認しておくことが大事です。
この段階で「規定のバルブタイミングに合わせることできる」という保証を作ることで今後の作業で迷うことが無くなります。
整備の基本は、「正常に走っていた時の状態に戻せる」ことが重要です。
※2023年4月15日追記
1098等のテスタストレッタエンジンで工具をフィッティングするとこのようになります。
工具に「↑UP」と書いてある向きを、後バンクであれば天井側、前バンクであれば進行方向に向けます。
圧縮上死点を確認するためのマーキングの位置はその他車種と同じです。
交換手順② タイミングベルトを外す
カムシャフトのツールをいったん外し、カムシャフトプーリにあるトルクススクリュー(エンジン一機あたり3×4=12本)を緩めます。
スクリューを外すことはできないので2周程度緩める程度で十分です。
特殊工具をカムシャフトに装着している状態でボルトを緩めるとツールに負担がかかる恐れがある他、ベルトを外すときに邪魔になるのでツール無し、ベルトが張っている状態で緩めましょう。
次にベルトテンショナーのセンターにある12mm六角ナットを緩めて外し、プーリを抜き取ります。
ベルトをエンジンから外します。
テンショナープーリーとガイドプーリを指で回して内部のベアリングに損傷が無いか確認します。
ベアリングにガタやゴリゴリ感がある場合はプーリを分解してベアリングを交換しますが、ベアリングの脱着には油圧プレスが必要になります。
テンショナーの回転に抵抗があると、駆動時にベルトとの間に余計な摩擦が発生してベルトの消耗に繋がります。
ベルトケース内を念入りに清掃します。
このスペースに異物があるとベルトに噛みこんで損傷することがあります。
プーリーの表面が錆びていることがあるので、真鍮ブラシで清掃します。
ベルトが接触する部分に油分があるとベルトの動きにテンショナーの回転が追従できず余計な摩擦が発生し、ベルトの消耗を促進します。
清掃の最後に水に濡らした布で拭き取った後に乾拭きすることで、ベアリングのシールを傷める溶剤を使用することなく脱脂することができます。
交換手順③ カムシャフトを交換規定位置に合わせる
前後バンクのカムシャフトに特殊工具を再び装着し、カムシャフトプーリーの全てのトルクススクリューを軽く締め付けます。
次に、時計の張りで表現すると5~10分くらい、スクリューを緩めます。
緩めた後にプーリが動くことを確認します。
動きが渋いときはスクリューを更に僅かに緩めます。
こうすることで、スクリューがギリギリまで奥に挿入されつつも、プーリーが自由に動ける状態にします。
このスクリューはタイミングベルトを装着して張った後に完全に締め付けますが、ネジを緩めすぎているとカムシャフト位置が位相してベルトの張りに大きな誤差が生じます。
プーリーが自由に動きつつも、動かなくなる直前の状態までスクリューを締めこんだ状態にしてください。
さらに、クランクシャフトの位置が前バンク上死点であり、クランクシャフト側ベルトプーリの刻印が右エンジンカバーの線マークと一致していることを確認してください。
(クランクシャフト固定ツールを外していない場合は動かないので問題ありません。)
交換手順④ タイミングベルトを装着する
後ろバンク側から新品のタイミングベルトを取り付けます。
クランクシャフト側プーリーにベルトを挿入し、右エンジンカバーとの間にプラスチックのヘラを挿入して仮固定します。
新品のベルトには取り付け向きは無く、前後バンクで同じベルトを使用します。
中古品を再利用する場合は元のバンクに元の向きで装着してください。
ベルトを車体後方側(排気側)のカムシャフトプーリに引っ掛けます。
このときプーリーを半時計周りに一杯に回した状態でベルトを装着してください。
一杯に回した位置でベルトをかけることが出来ない場合は、プーリーを僅かに時計回りに動かしてベルトをかけます。
画像では右手でプーリーを反時計回りに保持した状態で、左手でベルトを山に載せています。
次に前方側(吸気側)カムシャフトにもベルトをかけます。
プーリは先ほど同様に反時計回りに回した状態を保持しています。
両側のカムシャフトプーリーにベルトをかけたら、画像の右下に写っている指の位置でベルトを押してテンションをかけつつ、タイミングベルトをカムシャフトの奥まで挿入します。
一連の流れを通じて、常にベルトが張った状態を片手でキープしてください。
テンショナープーリーを装着するボルトの内側にベルトを移します。
ベルトを逃がしつつ、テンショナープーリーを挿入します。
このとき、ベルトが邪魔してプーリーが挿入できないときはベルトの装着方法が誤っています。
この、テンショナーを装着するスペースにベルトの緩い部分を集中させるようにしてください。
装着中に、クランクシャフト側プーリーの所でベルトがいつの間にか外れてコマ飛びしていないか。
カムシャフト側プーリーを時計回りに回した状態で装着していないか。
これまでの解説を参考にやり直してください。
テンショナーを簡単に装着できないようであれば確実に重大なミスを犯しています。
そのまま無理やり装着して進めると間違いなくエンジンブローするので慎重に進めてください。
撮影しにくいので前バンク側に作業を進めました。
テンショナープーリを問題無く装着できたら、26mmレンチでプーリを反時計回りに回してベルトを適当に張り、プーリーのセンターのナットを手締めします。
ここまでの手順で外観上はベルトを外す前の状態に戻すことが出来ているはずです。
前バンクでのベルト装着の一連の流れを動画にしました。
必ずガイドプーリのある方からベルトを回し、再度にテンショナーを装着します。
参考にして下さい。
※2023年4月15日追記
1098系エンジンのテンショナープーリーを回すには純正の特殊工具が必要ですが、そのために工具を買うのも非現実的です。しかも使い勝手が良くないので上の画像のようにして調整します。
センターのロックナットを軽く締め付けた状態でテンショナーにある穴の部分を半時計周りに叩くことでテンションを強くすることができます。
ナットを締めすぎていると、強い力で叩かないとテンショナーを回すことができず損傷します。
張りを計測し、110Hz付近にあればロックナットを25N・mで締め付けます。
ナットを本締めしたことで狙いのテンションから外れた場合は、ナットを軽く緩めてから再度調整します。
このように後ろバンク側のベルトを装着したら工具を前バンクに差し替えて同じ作業をします。
交換手順⑤ タイミングベルトの張りを初回調整する
こちらの記事を参考にタイミングベルトの張りを調整します。
ベルトの張りは水冷の場合、新品であれば110Hzに合わせます。
新品のベルトに交換した後に100km程度の慣らし運転をしたときに張りが80Hz近辺になるのが理想です。
新品時に110Hzで張っておくと自然と理想値付近に落ち着くようになります。
交換後にベルトの張りを再度測定&調整する必要は無く、慣らし終了後はだいたい許容範囲に収まるはずです。
今の段階では張り調整は完了していないので、100~120Hzの範囲内で合わせれば大丈夫です。
テンショナープーリーを固定するナットもこの後に緩めるのでざっくり手締めでOKです。
ベルトの張りを許容範囲程度に合わせたら、カムシャフトのプーリーを固定するトルクススクリューを14N・mで締め付けます。
このスクリューはM6であれば空冷水冷問わず上記のトルクで締め付けてください。
緩いと走行中にネジが緩んでバルブタイミングがずれてエンジンブローします。
スクリュー2点までは特殊工具装着状態で締め付けることができますが、最後の1本が工具が届かない場合はツールを外してから締め付けます。
カムシャフトプーリーを固定するスクリューは、特殊工具を外した以降は緩めることはありません。
この段階で前後バンク、吸排気側の全てのスクリューが確実に締まっているか必ず念入りに確認してください。
スクリューの頭には締め付け位置をマーキングして下さい。
私は以前に848のベルト交換をした後にスクリューが走行中に脱落し、タイミングベルトとプーリの間にスクリューが噛みこんでバルブを曲げました。
万が一の場合でも失敗の原因が判るようにしておくと精神衛生上の助けになります。
交換手順⑥ タイミングベルトの張りを最終調整する
両バンク側のカムシャフト固定ツールを外したら、クランクシャフトを固定するツールを外します。
クランクシャフトに回転用特殊工具をセットし反時計周りにクランクシャフトを回転させます。
回転用の工具が無い場合はクランクシャフト側のプーリーナットに特殊ソケットをかけて反時計回りに回転させます。
その工具も無い場合はギアを6速に入れてタイヤを浮かせた状態で回すとクランクシャフトを回すことができます。
この時、必ずスパークプラグが外れている状態で回してください。
回すときにエンジンから「グワン!」と音がする時は逆回転です。
バルブタイミングを万が一間違えているとシリンダーヘッドのバルブとピストンが接触してダメージが入ります。
最初の方はゆっくりと回してください。
クランクシャフト2回転分、スムーズに回れば少なくともエンジンブローするような間違いは犯していません。
そのままできるだけたくさんクランクシャフトを回してください。
こうすることでベルトと各プーリーの位置関係が馴染みます。
クランクシャフト側プーリーと右エンジンカバーの刻印が一致している位置に合わせて、前バンクを圧縮上死点にします。
この時張りを再度測定して110Hz ±5Hzにあるか確認します。
今回は107Hzなので許容範囲内にあります。
馴染ませた後の張りが規定値内にあればテンショナープーリーの12mm六角ナット(M8)を25N・mで締め付けます。
続いてクランクシャフトを270°正回転させて、後ろバンクを圧縮上死点にします。
角度が判らない場合は、前バンクを上死点にしてからクランクシャフトを正回転(音が無くスムーズに回る方向)させて、後ろバンクのピストンが最初に一番高くなる場所が圧縮上死点です。
前バンクを圧縮上死点にしてから、後ろバンクピストンが2回目に一番高くなる位置(or逆回転させて最初に一番高くなる位置)はバルブオーバーラップなので測定位置ではありません。
この時、後ろバンクは118Hzとなりました。
先ほど特殊工具を装着した状態で、初回の張り調整をしたときはベルトの位置関係が微妙にずれており、馴染ませた後に正規な位置関係となった結果、張りが強くなったようです。
109Hzに張りを再調整しました。
20~30Hz程度の範囲内で張り調整する分にはバルブタイミングがずれることは無いので、カムシャフトをロックする特殊工具を装着する必要はありません。
圧縮上死点の位置のままテンショナープーリを保持しつつ、テンショナーのロックナットを緩めてからプーリを僅かに回してからロックナットを締め付けて少しずつ張り調整します。
再調整した後はクランクシャフトを何周か回して、張りが許容範囲にあるか再確認してください。
毎回必ず同じ張りにはならないので、3セット程度計測し、再調整した時と近しい値にあれば良しとします。
張りを最終決定した後はカムシャフト側プーリーのトルクススクリューとテンショナープーリーのロックナットをトルクレンチで締め付けてあるか再度確認してください。
これにてタイミングベルト交換は完了です。
最後にクランクシャフトに装着した工具を外して小窓を装着し、スパークプラグやカバー類等外した部品を装着して正常にエンジンがかかるか確認してください。
コメント
1098Sのタイミングベルト交換を自分でやりましたが、奥のベルトを掛ける際、カムの部分が少し回った状態でベルトを掛けてしまいました。
ベルト交換が終わり、後輪を回してみたら、途中で回らなくなりました。整備士の友人に聞いてみたら、ピストンとカムがぶつかって後輪が回らないのではないかと言われました。現在ベルトを外し、どうしたものかと思案中です。